誘導ラマン散乱は非線形光学過程の一つであり、これによって、さまざまな物質でその物質の内部振動周波数に相当する量だけ入射光の周波数からシフトした周波数位置で光利得を得ることができる。この効果はラマンレーザーとして知られている、さまざまな種類の波長可変な光源を実現する原理となる。一般に、これら光源は小さい利得(〜10-9 cm W-1)しか持たず、したがって強力なレーザーによる外部ポンピングが必要になる。このため、このような光源の応用は限定されている。本論文では、これらの限界を克服するよう設計し、実現した半導体注入ラマンレーザーについて報告する。この素子の基礎となる物理は既存のラマンレーザーとは基本的な点で異なっている。これは、内部光ポンプとして作用する量子カスケードレーザーの活性領域内部で起こる、量子閉込め状態間の三重共鳴誘導ラマン散乱を利用している。したがって、この素子は電気駆動でき、外部レーザーポンプは必要ない。その結果、ラマン利得が数桁向上し、高い転換効率と低いしきい値が得られる。これは非線形光学素子と半導体注入レーザー両方の利点を生かしたレーザーであり、新しい種類の小型で波長可変な中間赤外から遠赤外の光源となるであろう。