Sponsor Feature

AMR(薬剤耐性)問題:シオノギは公衆衛生の脅威に対する政策の導入を提案します

Gareth Morgan, Yoshinori Yamano, Keiko Tone, Masahiro Kinoshita, Takuko Sawada & Tsutae Nagata

Produced by

Shionogi & Co., Ltd.

PDFダウンロード

AMR(薬剤耐性)は、細菌、ウイルス、真菌および寄生虫によって引き起こされる感染症に対して効果的な予防・治療を行う上で深刻な脅威となっています。AMRは世界規模の問題であり、これらに感染した患者に深刻な影響を与え、また、社会に対して直接または間接的に多大なコストを強いることになります。現在起こっている新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によるパンデミックは、いかに感染症が社会に対して破壊的な事態を引き起こし得るかを示しています。AMRの広がりは比較的ゆっくりと進み、気づきにくいですが、COVID-19に劣らず危険です。現在でも、薬剤耐性によって毎年70万人が死亡していると推定されており、このまま問題が解決されなければ、2050年には死亡者数が年間1000万人に達すると予測されています1

AMRは、一世紀にわたる医学の進歩を無に帰す恐れのある、ゆっくりとした津波である テドロス・アダノム・ゲブレイェソス WHO事務局長

世界保健機関(WHO)の事務局長であるテドロス・アダノム・ゲブレイェソスは、「AMRは、一世紀にわたる医学の進歩を無に帰す恐れのある、ゆっくりとした津波である」と述べています。AMR問題の中でも、抗菌薬に対する細菌の耐性獲得が最も重要な要素だと思われます。なぜなら抗菌薬は、日常行われる手術から化学療法、臓器移植に至るまで、現代医療の多くを支えているからです。私たちは、耐性化する細菌と長年にわたり闘ってきていますが、徐々に敗北に追い込まれつつあります。早急に対策を取らなければ、抗菌薬が効果を失うことで、日常の医療処置が安全でなくなり、より複雑な治療や手術が不可能となり、感染症の流行に対処することができない未来に直面することが危惧されます。AMRが引き起こす問題は、予測可能かつ未然の防止が可能な危機ですが、そのためには今すぐ対策を講じる必要があります。AMR、特に抗菌薬への耐性は、政府や保健機関にとって、世界規模、地域、国レベルにおける緊急の優先事項と考えられなければなりません。

感染症対策のイノベーション

シオノギは、140年以上前に大阪で設立されたグローバル製薬企業です。シオノギは患者さんのことを第一に考え、感染症研究へ継続的に投資することの重要性を認識しています。2020年に実施された医薬品アクセス財団(Access to Medicine Foundation)によるAMRに対する取り組みに関するベンチマーク調査(Antimicrobial Resistance Benchmark survey)において、シオノギは収益に対する抗菌薬の研究開発(R&D)への投資比率が、評価対象企業の中で最も高いと評価されました。

抗菌研究におけるシオノギの主な業績は以下の通りです:

  • 1959年:スルファメトキサゾール、現在でも臨床で用いられているスルホンアミド系抗菌薬で、トリメトプリムとの組み合わせでWHO必須医薬品リストに掲載されている。
  • 1982年:モキサラクタム(ラタモキセフ)、世界で最初のオキサセフェム系抗菌薬。
  • 1988年:フロモキセフ、世界で2番目のオキサセフェム系抗菌薬。
  • 1992年および1997年:セフチブテンおよびセフカペン、新規経口セフェム系抗菌薬。
  • 2005年:ドリペネム、新規カルバペネム系抗菌薬。
  • 2019年:セフィデロコル、世界で初めて承認されたシデロフォアセファロスポリン系抗菌薬。

シオノギは重要な抗ウイルス医薬品も創出しており、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2、COVID-19の原因である病原体)に対する治療薬、ワクチンおよび診断薬の研究開発にも取り組んでいます。シオノギの主な抗ウイルス薬の業績は以下の通りです:

  • 2013年:ドルテグラビル、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)に対するインテグラーゼ阻害薬。
  • 2018年:バロキサビルマルボキシル、インフルエンザウイルスに対する世界初のキャップ依存性エンドヌクレアーゼ阻害薬。

インフルエンザやSARS-CoV-2のようなウイルス感染の二次感染として発症する細菌感染症は非常に重篤になることがあります。1918年、1957年および1968年のインフルエンザのパンデミックにおける死亡の多くは、細菌の二次感染による肺炎が直接の原因であったと考えられています2。抗菌薬の積極的な予防的使用により、発生が抑制されてはいるものの、SARS-CoV-2ウイルスに続く細菌の二次感染も報告されています。シオノギの欧州におけるセフィデロコルのアーリーアクセスプログラム(上市前薬剤提供制度)の最近の解析データによると、COVID-19のパンデミックがピークであった2020年4月から7月にかけて、セフィデロコルの提供依頼の35%が、南欧を中心とするSARS-CoV-2感染患者の処置に対するものでした(社内資料)。

問題となる病原体

1882年にハンス・クリスチャン・グラムによって発明された染色法により、細菌はグラム陽性菌とグラム陰性菌の2種に分類されます。ブドウ球菌や連鎖球菌などのグラム陽性菌は厚いペプチドグリカン層を持ち、外膜はありません。これとは対照的に、クレブシエラ菌や緑膿菌、アシネトバクターなどのグラム陰性菌はペプチドグリカン層が薄く、リン脂質とリポ多糖体から成る非対称な二重層である外膜を持ちます。抗菌薬が特定の細菌種を効果的に治療できるかどうかは、グラム陽性菌とグラム陰性菌の細胞膜の構造の違いや、細菌が抗菌薬に対抗するために産生する酵素の多様性によって決まります。

多剤耐性(MDR)、時には「スーパーバグ」、「悪夢の細菌」といわれる薬剤耐性菌の増加は世界中で問題となっています。多剤耐性菌は複数の薬剤クラスの抗菌薬に対して耐性を示すため、治療が困難です。WHOは、問題となる細菌について、重大、高度、中等度に分類しており、「重大」に分類される病原菌は以下の通りです:

  • カルバペネム耐性のアシネトバクター・バウマニ。
  • カルバペネム耐性緑膿菌。
  • カルバペネム耐性または第3 世代セファロスポリン耐性の腸内細菌科の細菌。(腸内細菌科の細菌に含まれるもの:肺炎桿菌、大腸菌、エンテロバクター属、セラチア属、プロテウス属、プロビデンシア属およびモルガネラ属)

「重大」に分類される細菌はすべてグラム陰性菌です。カルバペネム系抗菌薬は、院内における重症のグラム陰性菌感染症に対する治療薬として主に使われています。カルバペネムは20年前ではほとんどの場合に有効でしたが、現在ではカルバペネム耐性のグラム陰性菌が増えてきています。例えば韓国では、カルバペネム系抗菌薬の一つであるイミペネムに対するアシネトバクター・バウマニの耐性率が2015年には85%まで上昇しました3

グラム陰性菌は、カルバペネム系抗菌薬に対して主に3つの耐性獲得機序を有します。ポーリン孔の変異による抗菌薬の細胞内への透過阻害、排出ポンプの産生による抗菌薬の細胞外への排出、そしてβ-ラクタマーゼによるβ-ラクタム系抗菌薬の不活化です。新規の抗菌薬は、より効率的な外膜透過能を持つ、あるいは益々多様化するβ-ラクタマーゼに対する高い安定性を有することによって、これらの耐性機序を克服する必要があります。

カルバペネム耐性菌感染症は、患者死亡率を引き上げる原因となるだけでなく、治療に高額な費用を要します。アシネトバクター・バウマニの感染は入院の長期化を伴い、しばしば集中治療室への入室が必要となります4。米国では、カルバペネム耐性腸内細菌科の細菌に感染した患者一人を治療するのに2万2千ドルから6万5千ドル(約250~700万円)の費用がかかると試算されています5。特定施設でのカルバペネム耐性菌感染症の集団発生は、非常に高額の負担になります。2014年から2015年にかけて英国の西ロンドンで発生したカルバペネム耐性肺炎桿菌感染の流行では、5つの病院で40人の患者が罹患し、最終的に合計110万ユーロ(約1.5億円)の費用がかかりました6。今すぐ対策を取らなければ、抗菌薬耐性の増加によって既にひっ迫している医療予算にさらなる負担が生じ、最終的には患者の治療にも影響することが懸念されます。

セフィデロコル –「トロイの木馬」

シオノギが開発したセフィデロコルは、米国食品医薬品局7と欧州医薬品庁8から最近承認を取得した抗菌薬で、WHOが最も重大と位置付ける病原菌を含むグラム陰性菌に効果を発揮します。セフィデロコルはシデロフォアセファロスポリン系という新規のクラスの抗菌薬です。鉄は細菌にとって生育に欠かせない微量栄養素であり、細菌やその他の微生物はシデロフォアと呼ばれる鉄キレート能を有する物質を分泌し、細胞膜を通過して能動的に鉄を取り込みます。セフィデロコルは、細菌の産生するシデロフォア分子を模倣し、鉄と結合します。セフィデロコルと鉄のキレート錯体は、特異的な鉄輸送チャネルを介し、細菌の外膜を通過してペリプラズム領域に能動的に運ばれます。このギリシャ神話の「トロイの木馬」を彷彿させる方式により、セフィデロコルは細菌内へ効率的に侵入し、抗菌薬耐性機序を克服します9

図1 セフィデロコルの構造
PBP:ペニシリン結合タンパク10 | 拡大する

シデロフォア構造を有するβ-ラクタムの創製に関する研究は1980年代から始まりましたが9、初期の試みは順調ではありませんでした。1990年代の始め、シオノギはグラム陰性菌に対して強力な抗菌活性を有する2つのシデロフォアセファロスポリンを見出していましたが、当時はグラム陽性およびグラム陰性菌を含む広い抗菌スペクトルを有するカルバペネム系抗菌薬の開発に焦点を絞っていました。シデロフォアを用いた抗菌薬の研究が再開されたのは、カルバペネム耐性グラム陰性菌の出現に関する報告が出始め、新たな抗菌薬の必要性が明らかになった2000年代初頭でした。そこからシオノギのさらなる研究により、セフィデロコルの創出に至りました10

セフィデロコルは、セファロスポリン骨格にシデロフォアを模倣するよう設計されたカテコール側鎖構造を有することにより、細菌へ速やかに取り込まれます。さらに、種々の側鎖を修飾することによって、β-ラクタマーゼに対する安定性が増し、抗菌活性も高まりました(図1)。セフィデロコルのカテコール側鎖によって鉄とのキレート錯体の形成が可能になり、外膜の能動的トランスポーターを介して菌体内に取り込まれます。ペリプラズム領域において、鉄は錯体より遊離し、セフィデロコルはペニシリン結合タンパク(PBP)と結合することによって、細胞壁合成を阻害し、菌を死滅させます(図2)。

図2 セフィデロコルはグラム陰性菌の鉄取込み機序を介して菌の中に侵入できる
1. セフィデロコルが細胞外の鉄とキレート結合する。
2. キレート錯体が外膜の受容体によってペリプラズムに能動的に輸送される。
3. ペリプラズム内でセフィデロコルと鉄は遊離する。
4. 他のβ - ラクタム系抗菌薬と同様に、セフィデロコルはポーリンを介した受動的透過によってもペリプラズム内に取り込まれる。
5. ペリプラズム内でセフィデロコルはペニシリン結合タンパクに結合して細胞壁の生合成を阻害する。 | 拡大する

AMRに関する課題の深刻化、および新規の細胞侵入機序によるセフィデロコルの抗菌活性を考慮して、シオノギは、臨床開発の段階で拡大アクセスプログラム(他に治療選択肢を持たない生命を脅かす感染症の患者に向けたもので、一般的にコンパッショネート・ユース、特別アクセスプログラムなどと呼ばれる)によって、危急の患者がセフィデロコルを入手できるようにしました。2020年7月時点で、10ヵ国を超える国の200人超の患者にセフィデロコルが提供されています。

早急な対策の実施が重要

2015年、WHOは「AMRに関するグローバル・アクション・プラン」を公表し、「調和のとれたグローバルな対策を早急に行わなければ、世界はありふれた感染症が再び死の脅威となるポスト抗菌薬時代に向かってしまう」と警告しました。シオノギは、このような対策の実施要請を支持し、AMRの危機に対処する6つの方策の柱(図3)を提唱しています:

  • 経済的インセンティブを通じてAMR製品の予測可能かつ持続可能な市場を作ります。そのために、製品の販売量と関連しない(切り離した)償還制度(プル型インセンティブとして知られている)や、抗菌薬に特化した保険償還の価値評価手法を確立します。
  • 新規の抗菌薬の開発および承認のためのグローバルな規制を調和させます。一部進展もみられますが、世界各国の規制当局は、依然として開発プログラムに関して異なる要件を有し、異なる効能で新薬を承認しています。
  • 臨床試験をより効率的に実施するために、臨床試験ネットワークを確立します。新規の抗菌薬の臨床試験の実施は難しく、非常に多くの費用がかかります。1つの新薬の承認を取得するための開発コストは10億米ドルを超えています11
  • 動物への抗菌薬の使用規制、抗菌薬スチュワードシップならびに経年的な耐性菌の疫学サーベイランスの推進を通じて、抗菌薬の適正使用を保証します。新たな診断法とサーベイランスの強化は、抗菌薬の適正使用推進と、どこで耐性菌が発生し問題となるかを把握する上で必要です。
  • 有効な薬剤を、直接または提携先を介して、必要としている患者に届けます。一部の国では、基本的な医療や汎用抗菌薬を容易に享受することができません。多くの人が当然のように医療インフラへアクセスできるようにすることは、優先的に取り組むべき課題です。
  • 抗菌薬の製造に起因する環境への影響を低減します。抗菌薬の環境への排出を、製造中に計測・管理する新たな基準が開発されています。AMR Industry Allianceに参画するバイオ製薬企業は、自社の製造プロセスを適正に管理することを確約しており、他社も後に続く必要があります。
図3 薬剤耐性に取り組むために必要な6つの方策の柱 | 拡大する

崩壊した市場

抗菌薬の開発は、長い期間を要する複雑かつリスクの高いプロセスであり、多くの失敗を伴います。医療関係者によるスチュワードシップを含む適正使用イニシアチブの目的は、新規抗菌薬の使用を制限し、その用途を治療選択肢が限られた事例に絞ることによって、耐性が生じる速度を遅くすることにあります。抗菌薬の適正使用は不可欠ですが、その結果として新薬が使用される機会が減少し、継続的な商業化および新規抗菌薬の健全なパイプラインを支える収益が制限されます。市場規模に関する不確かさに、新規抗菌薬の創出および開発が益々困難になりつつある状況が重なり、多くの大手企業が抗菌薬開発プログラムから撤退またはその規模を縮小して12、より予測が容易な疾患領域に注力するようになりました。同様の問題として、製品化した抗菌薬を有する複数の小規模企業が破産を申し立てたり、買収を求めたりする状況にあり、抗菌薬市場の多様化や熟練研究者の雇用機会に悪影響を及ぼしています。2019年4月にはAchaogen社がプラゾマイシンの発売開始後に破産を申し立て、すべての資産は売却されました。2019年12月にはMelinta Therapeutics社が破産を申し立て、2020年7月にはTetraphase Pharmaceuticals社がLaJolla Pharmaceutical Companyにより買収されました。端的に言えば、AMRに対処するための抗菌薬の市場が崩壊しているのです。

シオノギは、実行性のある市場を取り戻し、この重要な分野におけるイノベーションを維持するために、新たなインセンティブ、助成金、抗菌薬に適した保険償還の価値評価モデルの導入を強力に支援します。また、R&Dに対するインセンティブ(プッシュ型インセンティブ)、商業化に対するインセンティブ(プル型インセンティブ)、その他、新規抗菌薬市場を活性化する価値評価および保険償還の改革を提唱します。シオノギは、プッシュ型インセンティブ導入の目に見える進展を大きく評価しています。例えば、米国保健福祉省の生物医学先端研究開発局(BARDA)による広域スペクトラムの抗菌薬プログラム、国際的な非営利パートナーシップであるCombating Antibiotic-Resistant Bacteria Biopharmaceutical Accelerator(CARB-X)、そして革新的医薬品イニシアチブが立ち上げたNew Drugs for Bad Bugsプログラムなどが挙げられます。またシオノギは、発展途上国の感染症治療に用いられる革新的な医薬品の研究開発を推進するために設立された、日本初の官民共同基金であるグローバルヘルス技術振興基金に2013年の設立当初から参加しています。

プッシュ型インセンティブも重要ですが、患者に新しい抗菌薬を確実に届けるためにはプル型インセンティブが極めて重要となります。プル型インセンティブに関しては、今日まで多くの議論がなされていますが、具体的な導入はほとんどない状況です。シオノギは、プル型インセンティブは国や地域の実情に即したものであるべきと認識しており、一連のプル型インセンティブからの選択と実行を支持します。例えば、部分的もしくは完全に市場から独立した参入報酬、サブスクリプション支払いスキームや政府による購入に加え、診断別分類に紐づいた保険償還や、革新的な抗菌薬に見合う価値算定に基づく価格設定や保険償還構想など、選択肢は多岐に渡ります。シオノギは、プル型インセンティブに関して、現在政府や他の組織で行われている議論を評価しており、議論から実施へ一刻も早く移行することを強く提唱しています。シオノギはまた、開発や販売とも連動する、製造の諸課題に対する対策も支援します。

業界の足並みは揃った。次のステップは?

AMRに対するグローバルなOne Health対応を主導・調整するための新しいイニシアチブに進捗が見られていますが、これは、国際連合や他の機関と協力を得たWHO、国際連合食糧農業機関、国際獣疫事務局などによる活動の成果です。

製薬業界も、AMRに対処するための具体的な措置に全力を注ぎ、目覚ましい進歩を遂げています。しかしながら、AMRは複雑な問題であるため、複数のセクターやステークホルダー同士の連携が必要です。シオノギは、組織間の連携による新しいイニシアチブの進展に注目しています。

2016年、シオノギは100社を超える製薬企業、バイオテクノロジー企業や関連団体と共に、世界経済フォーラムにおいてAMRに関する共同宣言に署名しました。この共同宣言では、新規あるいは既存の治療法の有効性を維持していく必要性を強調しつつ、抗菌薬、ワクチン、診断薬の持続可能かつ予測可能な市場を創出するための集団的な取り組みを求めています。さらに、他の大手企業12社と共に、抗菌薬研究と適正な使用、アクセスおよび製造のためのアクションプランを示す産業ロードマップに署名しました。この取り組みに関与した企業は、その後AMR Industry Allianceを設立しました。この民間連合には、バイオテクノロジー企業、診断薬メーカー、ジェネリック医薬品メーカー、および研究開発型の大手製薬企業が共に参加しています。

2020年7月、シオノギは20社を超える製薬企業、バイオテクノロジー企業と提携し、AMR Action Fundを立ち上げました。抗菌薬を研究開発している小規模なバイオテクノロジー企業に対し、新たな市場を基盤とする政策改革が実行されるまでの間、財務的な支援を行います。AMR Action Fundは、10年間で2つから4つの抗菌薬を市場に出すために10億米ドル近くを投資します。しかしながら、この活動で時間を稼ぐことはできるものの、抗菌薬市場の崩壊という現状の解決には至らず、世界中の政府による早急な対応が必要です。

グローバルな対応が求められている中で、2つの国がリーダーシップをとっています。英国は、処方量と切り離して薬剤を購入する試験的プログラムを、2つの抗菌薬に対して実施すると発表しました。本英国国民保険サービス(NHS)のプログラムは、AMRを標的とする抗菌薬について企業に固定報酬を支払い、その代わりに必要な時はいつでも追加費用無しで抗菌薬を受け取れるものです。この試験導入が成功した場合、英国NHS全体での本格展開が期待されます。スウェーデンでは、医療的に重要な抗菌薬へのアクセスを保証するようデザインした試験的プログラムを実施しており、通常の保険償還に加えて、抗菌薬にアクセスするために企業に年間報酬を支払います。シオノギは新しいAMR政策を試験導入した英国とスウェーデンを称賛します。

プル型インセンティブに加え、多くの国が抗菌薬の価値を決定する際に用いる評価プロセスに、新たなアプローチが必要です。医療技術評価は、新薬から得られる利益と費用を評価しますが、感染伝播の抑制、耐性化の抑制、他の医療手技実施を支える側面など、集団レベルの利益を評価から除外する傾向にあります。COVID-19のパンデミックは、感染症の社会的な伝染の恐ろしさを見せつけました。これを契機として、適正な抗菌薬の価値評価へ向けて各国間で考え方が調和され、変化が促進されることを願います。

行動の呼掛け

SARS-CoV-2ウイルスは、2020年初頭までほとんど知られていませんでしたが、AMRは私たちが良く知り、理解している脅威です。私たちは緊急に新規治療薬が必要とされている優先度の高い病原体を把握しており、それを治療するための薬剤の開発方法も知っています。シオノギは、プル型インセンティブや新しい価値の評価、保険償還システムなど、抗菌薬の開発および商業化を奨励する仕組みを確立するには時間がかかり、各国および世界的なレベルでステークホルダーの関与や政治的同意が必要であることを認識しています。新たな感染症による危機を防止するために、私たちはAMRに対して行動を起こす必要があります。シオノギは、感染症への取り組みを通じて社会に貢献することに使命感を持ち、個々の患者や社会全体が継続して新規抗菌薬の恩恵を受けられるようにリーダーシップをとっていきます。

我々著者は、このホワイトペーパーの作成に際し、シオノギの同僚(吉田 博之、有吉祐亮、Andrew Koren、James Bond、Lisa ButkowskiおよびKelli Smith)から受けた助力に対し感謝を表します。

原文:Antimicrobial resistance: Shionogi advocates policy change to address the public health threat


Sponsor retains sole responsibility for the content of this article

References

  1. Tackling Drug-Resistant Infections Globally: Final Report and Recommendations (Review on Antimicrobial Resistance, 2016).
  2. Morens, D. M., Taubenberger, J. K. & Fauci, A. S. J. Infect. Dis. 198, 962–970 (2008).
  3. Kim, Y. A. & Park, Y. S. Korean J. Intern. Med. 33, 247–255 (2018).
  4. Eberle, B.M. et al. Crit. Care Med. 38, 2133–2138 (2010).
  5. Bartsch, S. M. et al. Clin. Microbiol. Infect. 23, 48.e9–48.e16 (2017).
  6. Otter, J. A. et al. Clin. Microbiol. Infect. 23,188–196 (2017).
  7. FETROJA® full prescribing information.
    https://www.accessdata.fda.gov/drugsatfda_docs/label/2019/209445s000lbl.pdf.
  8. FETCROJA® product information.
    https://www.ema.europa.eu/en/medicines/human/EPAR/fetcroja#product-information-section.
  9. Tonziello, G., Caraffa, E., Pinchera, B., Granata, G. & Petrosillo, N. Infect. Dis. Rep. 11, 8208 (2019).
  10. T. & Yamawaki, K. Clin. Infect. Dis. 69, S538–S543 (2019).
  11. Wouters, O. J., McKee, M. & Luyten, J. JAMA. 323, 844–853 (2020).
  12. Boucher, H.W. et al. Clin Infect Dis. Online ahead of print at https://doi.org/10.1093/cid/ciaa092.

「薬剤耐性(AMR)」へ戻る

プライバシーマーク制度