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ビール好きは風味の好みで二派に分かれる

一般的なビール党は、風味の強いものを好むか、穏やかなものを好むかに大別される傾向がある。 Credit: Leopatrizi/Getty

モルトの香ばしさか、ホップの爽やかさか、それともフルーツのような芳醇さか。ビールの風味がさまざまであるように、ビール好きも一様ではない。このたび、一連のラガービールを試飲したビール愛飲家が、強い風味の化学物質を好むタイプと穏やかな風味の化学物質を好むタイプの2つに明確に分かれることが見いだされた。

研究チームは2025年8月18日に、この知見を米国ワシントンD.C.で開催された米国化学会秋季大会で発表した。

新しいビールの官能評価は、ワインのソムリエのように、かんきつ類や花の香りを識別できる熟練の評価員に頼ることが多い。だが、オハイオ州立大学(米国コロンバス)の食品科学者Devin Petersonは、専門家ではなく一般のビール好きが何に引き付けられるのかを探り、「消費者の行動の駆動因についての理解」を深めたいのだとNatureに語った。

そこでPetersonらは、約135人の自称「ビール愛飲家」に、3回の試飲会で18種類のラガービールを試飲・評価させた。条件をそろえるため、試飲するビールはアルコール度数が近く、苦味レベルも同程度のものとした。参加者はビールの甘味や香りの強さなどの特性を評価し、研究チームは質量分析法で各ビールの主要な風味化学物質を特定した。

その結果、参加者はビールの順位付けに基づいて2つのグループに大別できることが明らかになった。強い風味を好む人々はサミュエル・アダムスやブルックリンなどのブランドを上位に、バドワイザーを下位に評価した。一方、穏やかな味わいを好む人々は、これらのブランドをほぼ逆の順位に評価した。発表の場でPetersonは、両グループは「ビールに対する反応が正反対」だと話した。

パイナップルか、それともイチゴか

研究チームは、こうした風味の嗜好が、それぞれのグループで特定の化合物に対する反応の強弱として表れていることを確認した。例えば、強い風味を求める人々は、イチゴやジャムを連想させる化合物であるフラネオールを好んだ。一方、より繊細な味わいを求める人々は、パイナップルに関連する3-メチルチオプロピオン酸エチルを好んだが、高濃度のα-テルピネオール(マツの香りを連想させる物質)は好まなかった。

PetersonはNatureに対し、今回の結果は「(ビール会社が)異なる消費者層向けに製品をより細かく調整する可能性」を開くものだと語った。「これにより、ビール業界は、消費者の好みに合わせた製品を通じて、顧客をさらに的確に狙うことができるようになります」。

ウェストテキサスA&M大学(米国キャニオン)の生化学者Nick Flynnは、化学物質の嗜好によってビール党の人々を分類する今回の方法が、将来のビール設計のあり方を方向付ける可能性があると話す。もっとも、あなたのお気に入りのビールがすぐに作り替えられてしまうわけではない。Flynnは、コカ・コーラ社が「製品に対する消費者の感情的な結び付き」を理由にレシピを変え過ぎないようにしていることを引き合いに、「あなたが十年来飲み続けてきたビールについて心配する必要はありません」と語る。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 22 No. 12

DOI: 10.1038/ndigest.2025.251213

原文

Beer lovers fall into two flavour camps — which one are you in?
  • Nature (2025-08-28) | DOI: 10.1038/d41586-025-02709-1
  • Jenna Ahart