活用事例・取り組み - 「科学者の卵養成講座」講義レポート

「科学記事を読みこなす:地球の未来を考える」
—高校生たちの討論会

『飛翔型「科学者の卵養成講座」』は、東北大学が主催する、科学に興味を持つ高校生を対象としたプロジェクトだ。2018年1月28日の講義では、「科学記事を読みこなす」ことを目的にNature ダイジェスト が学習材料として用いられた。高校生たちは、Nature ダイジェスト に掲載された地球温暖化に関する記事を読み、自ら調べ、考えて、環境対策のアイデアを出し合い、意見を戦わせた。

Nature ダイジェスト 対象記事

エルニーニョ現象で熱帯の森林が二酸化炭素の放出源に

強いエルニーニョ現象による高温や干ばつで、熱帯の森林が放出する二酸化炭素量が大きく増加していたことが分かった。

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171111
原文:Nature (2017-08-17) | doi: 10.1038/nature.2017.22440 | Massive El Niño sent greenhouse-gas emissions soaring

科学好きの高校生たちが月1回、東北大学のキャンパスに集まってくる。「科学者の卵養成講座」が開かれる日だ。それは、高校1、2年生約130名が、現代科学の先端を行く研究者によるナマの講義を受けたり実験を行ったりして、科学者としての視点を学んでいく、1年間のプログラムである。

2018年1月28日、この日の講義は、いつもと少し異なる特別なものとなった。Nature ダイジェスト の記事を学習材料として利用するというのである。科学記事や論文を読んで得た情報を自らの研究に生かしていくことは研究者に必須の能力であり、今回の講義は、受講者である高校生たちにとって貴重な体験となることだろう。

具体的には、Nature ダイジェスト 2017年11月号の記事「エルニーニョ現象で熱帯の森林が二酸化炭素の放出源に」を読み、受講生たちで地球温暖化対策を考えていくというのが課題である。

記事を読んで自分なりの提案を考える

東北大学大学院工学研究科 安藤晃教授

Nature ダイジェスト は、Nature のニュース記事を日本語で紹介するジャーナルだ。記事の根拠となった論文などの文献をたどることもできる。Nature ダイジェスト を読むと、「今、世界では、どういうことに科学者が注目し、議論を重ねているかが分かります。だからこそ、今回のような講義の素材としては最適なのです」と、『飛翔型「科学者の卵養成講座」』の実施主担当である安藤晃(あんどう あきら)教授(東北大学大学院工学研究科)は説明する。記事を読んで得た情報をもとに、何が問題とされているかを受講生それぞれが自ら考え、調べたりしながら、自分なりの対策案を作成し、さらにそれを練り上げ完成度を高めてもらおうと考えているそうだ。

今回の課題で環境問題の記事を選択した理由は、「生徒が共通に興味を持てる身近なテーマであり、かつ、物理・化学あるいは生物学などのさまざまな角度からアプローチでき、考えを深めていけるからです」と、講座の統括コーディネーターである渡辺正夫(わたなべ まさお)教授(東北大学大学院生命科学研究科)は説明する。渡辺教授も安藤教授も、「いろいろな分野の研究を紹介するNature ダイジェスト は、自分の専門分野ばかりでなく、広い視野を養うのに便利」と評す。研究室の本棚には、Nature ダイジェスト を置き、学生が自由に読めるようにしてあるそうだ。

グループで討論して1つの提案を作る

東北大学大学院生命科学研究科 渡辺正夫教授

受講生たちには講義の約1カ月前に今回の課題が伝えられており、講義当日、それぞれが記事を読んで考えた温暖化対策のアイデアを持ち寄った。それをグループに分かれて討議し、グループとしての温暖化対策案を作り上げて発表した。また発表後には、各案の出来栄えが投票によって決定された。「受講生たち自身が評価して優勝チームを決める。このほうが面白いでしょうし、競争心も湧くことと思います」と、渡辺教授。

今回の課題では、グループで討論し、1つの意見を練り上げていくという過程を体験すること自体も重要なねらいだ、と安藤、渡辺、両教授は強調する。グループの中でいかに意見を戦わせられるか、自分の主張をいかにして他人に認めてもらうか、あるいは、他人の意見と協調し合えるか。そうした討論を経てグループとして1つの提案を形成し、良い提案に仕上げていくことができるか。このような力を養成することは、科学者が研究を進めていく上で必要なことはもちろん、他の仕事に従事する場合でも求められる能力だろう。

2時間という制限の中で、盛りだくさんの内容が詰め込まれた課題だったが、各グループからは多彩なアイデアが出てきた。「同じ高校生でこんなことを考える人がいるのだと知り、自分の成長につなげられることが大切だと思います」と安藤教授。講義終了後、高校生たちからは、「地球温暖化についてはよく知っているつもりでしたが、記事を読むと知らない事実が出てきて、驚きました」「問題解決のアプローチは、視点を変えることで見つかるのだと知りました」「みんなで集まると、画期的な考えが生まれるのですね」「プレゼンテーション力も問われるのだと実感しました」といったコメントが、多数寄せられた。

藤川良子(サイエンスライター)

優勝チームの代表者インタビュー


チーム発表タイトル『人も地球も救うエコハウス!!』

秋田県立大曲高等学校
1年 小松愛実(こまつ まなみ)

科学がすごく好きなのですが、周囲には、科学に興味のある人があまり見当たらなくて。科学について何か発信できるかなと、「科学者の卵養成講座」に参加することにしました。科学記事を読んでアイデアを発表し合うという今回の課題はとても楽しみで、いろいろ考えてワクワクしていました。Nature ダイジェストの記事は少し難しいところもあったので、しっかり理解しようと、用語を調べながら読みました。

私たちのグループは、大気中の二酸化炭素を吸収する方法と、人間が排出する二酸化炭素の量を削減する方法の両方が必要と考え、それぞれの具体的な方法を対策に盛り込みました。

私が提案した具体策は、まず、ミドリムシを水槽付屋根で培養して二酸化炭素を大量に吸収させることのできるエコハウスです。私は好きな科目が生物で、ミドリムシには以前から興味がありました。さらに、二酸化炭素排出量の削減法として、ソーラーパネルを宇宙に設置して発電する方法も提案しました。太陽を追いかけるようにして地球の周りをソーラーパネルが回れば、天気や時間に左右されずに発電が行えると考えたのです。

発表はとても緊張しました。ですが、言いたいことは全部言えましたし、自分が考えていたことに対し、自分のグループだけでなく他のグループの人たちからもいろいろな意見を聞くことができ、満足しています。科学記事を題材にした面白い課題だなと思いました。


チーム発表タイトル『発展途上国に水素王国の建国』

福島県立福島高等学校
1年 安斎優希(あんざい ゆうき)

好きな科目は化学です。高校では科学部の化学班に所属し、グループで充電式電池の研究をしています。研究内容を発展させるため、英語の論文を読む必要が生じ、グループで手分けして翻訳し、読んだこともあります。今回のNature ダイジェスト の課題記事は日本語なので、スラスラ読めました。

地球温暖化という問題は、これまでにもいろいろと取り上げられ考えられてきたと思ったので、まず、どんな点に着目しようかと悩みましたが、発展途上国の対策が重要な課題といわれていることに気づき、発展途上国への経済的支援に注目することにしました。さらに、具体的な方法として、燃料電池(水素エネルギー)を普及させることを思いつきました。小さい頃に読んだ雑誌の特集記事がきっかけで、燃料電池には興味を持っていたのです。最近も、水素を使った燃料電池の実験を見る機会がありました。

今日のグループ内ディスカッションでは、他のメンバーからもいろいろなアイデアが出ましたが、インパクトがあるという理由で、僕のものが選ばれました。ディスカッションは、SSHの探究授業1や「科学の甲子園」2参加などを通じて、慣れています。プレゼンテーションも、小学校や中学校での1分間スピーチなどで数多く経験していますが、やはり楽しいですね。

  1. 福島高等学校は文部科学省のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されている。
  2. 「科学の甲子園」は、科学技術振興機構(JST)が主催する、全国の高等学校等の生徒チームを対象に、理科・数学・情報における筆記競技と実技競技で競い合う大会。考える力だけでなく、議論する力、課題解決力なども要求される。


チーム発表タイトル『温室効果ガス「エアロゾル」の可能性を追求する』

宮城県仙台市立仙台青陵中等教育学校
4年 山本望海(やまもと みう)

地球温暖化は学校でも学習しますが、「科学者の卵養成講座」で取り上げるからには科学的な視点で考え、しかも新しい何かを取り入れなければいけないだろうと思いました。そして、この記事が出発点となるだろうからと、しっかり読み込みました。調べたり考えたりした時間も含めると、2週間ほど記事を読んでいたことになります。

森林は地球温暖化を防いでくれると思っていたのですが、手入れをしないと、逆に温暖化の原因になることをこの記事で知り、驚きました。そこから、二面性という点に着目しました。有害といわれる温室効果ガスの中に、地球を助ける働きを持つものがないだろうかと調べてみたところ、エアロゾルにたどりついたのです。オゾン層のようにエアロゾルで地球を取り巻くことができれば、エアロゾルが太陽光を遮断したりして冷却効果を発揮すると考えつきました。

グループでは、他のメンバーからも良いアイデアが出されましたが、既存の技術でなく、新しいものがいいだろうということから、エアロゾルの利用に決まりました。そのうえで、さらにメンバーの知識も加えて、最終的な提案内容にまとめたのです。

私は、中学2年のときに受けた生物の授業がすごく面白くて、生物が好きになりました。今は、人体の仕組みや免疫学に興味があります。Nature ダイジェスト は以前から知っており、興味のある記事が載っているときには読んでいます。

※優勝チームの決め方
受講生約130人を36のグループに分け、それらのグループを3チームに分けた。まず各チーム内で発表と投票を行い、チームの代表グループを決定した。その後に全員が集合し、各チーム代表である3つのグループの発表を聞き、投票を行った。

講義後のその他の生徒たちの反応

(飛翔型「科学者の卵養成講座」ブログより抜粋)

飛翔型「科学者の卵養成講座」とは

科学者の卵養成講座

飛翔型「科学者の卵養成講座」は、国立研究開発法人科学技術振興機構「グローバルサイエンスキャンパス」事業(Sプラン)の支援の下に東北大学が実施している、科学に興味のある高校生を育成するプログラムです。

先端的な講義、レポート、研究活動などを通じて、科学研究の基礎となる探求心や考える力、物事の本質を見極める力を培い、さらには国際的な視野を持ち、新しい価値観を創造できる人材へと養成することを目的にしています。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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