薬学図書館掲載記事

トランスレーショナルリサーチにフォーカスした学際的生物医学ジャーナル ― Nature Reviews Disease Primers の創刊 ―

Nature Reviews Disease Primers
― A Multidisciplinary Biomedical Journal with a Translational Focus ―

薬学図書館 60 (3), 231-236, 2015

ミーナ・ラザック*、ジェイムズ・ブッチャー**

新しいNature ReviewsシリーズとしてNature Reviews Disease Primers が創刊された。本誌では毎号、一つの疾患/障害を網羅的に概説したPrimerとよばれるレビュー論文が掲載される。Primerは、疫学、発症機序、診断、スクリーニング、予防、治療および患者のQOL(生活の質)などの複数のセクションから構成されており、その分野の専門家だけでなく若手研究者や医学生まで含めた幅広い読者層にも読みやすいデザインとなっている。また、「Outlook」のセクションでは、その研究分野での未解決問題について、著者の見解が披露されている。さらに、すべてのPrimerには、内容が一見して解るイラストサマリーPrimeViewが採用されており、専門家以外の読者にも専門的内容が容易に理解できるように工夫されている。

キーワード: Nature Reviews、生命医学、出版、教育、biomedical sciences, publishing, teaching

はじめに

特に生物医学の分野では、単独で研究を進めるスタイルから他者と協力して展開する戦略的共同研究へとシフトしてきている。そのためには、自らが専門としない分野の調査に加えて、共同研究者との情報の共有と連携の強化を図る必要に絶えず迫られている。ことさら、若手研究者の場合、自分の専門分野は当然のこと、自身の研究に関連する他の研究分野に至るまで、科学の進歩に後れを取らないように日夜自己研鑽に努めなくてはならない。この観点から、医学のあらゆる分野にわたって、常に最新情報をアップデートすることが課題となっている。

これら研究者を取り巻く環境の変化に応えるツールとして、 Nature Reviews Disease Primers は創刊された。本誌では、特定のトピックスに関して凝縮された最新知識を発信するために、研究スペクトラム(基礎研究者と臨床医)の中から選ばれた専門家が執筆にあたっている。本誌のねらいは、研究者や臨床医が新たな研究分野に参入する際に、第1の導入ステップになることである。

オックスフォード英語辞典(Oxford EnglishDictionary)によると疾患(disease)は「身体、または身体の一部または臓器の機能が障害または破綻した状態」と定義されている。これに応じて、Nature Reviews Disease Primers は、悪性黒色腫のような「よく知られた疾患(classic diseases)」について取り上げている。加えて本誌は、心血管疾患や骨粗鬆症の発症リスクの増加に関連する閉経などの加齢現象を含む重要な健康関連トピックスにも焦点を合わせている。さらに、希少疾患、感染性疾患、および非感染性疾患をはじめ、精神疾患、発達障害、および栄養欠乏(いずれもヒトの健康に深刻な影響をもたらす)も、本誌の責任範囲の一部である。このように幅広い視野をもつNature Reviews Disease Primers は、さながら、査読のある医学百科事典あるいは医学データベースのようであり、STM(Scientific, Technical and Medical)ジャーナルの中でもひときわ異彩を放っている。近年、がん領域を中心にトランスレーショナルリサーチという言葉が生物医学の分野で定着している。このコンセプトは、基礎研究の成果を臨床現場につなぐ「橋渡し研究」を意味している。現在では多数の関連国際ジャーナルが刊行されていて活発な研究分野に成 長している。本誌もこのコンセプトを備えた「トランスレーショナルフォーカス」をもつ生物医学ジャーナルである。さらに、世界中から選りすぐった臨床科学や分子科学の識者から発信された情報リソースでもあるため、幅広い読者層から支持を得るものと思われる。

Primerとは?

既刊のNature Reviewsシリーズとの違い

既刊のNature Reviewsシリーズの内容は、それぞれのジャーナル名に応じた範囲に絞られている。例えばNature Reviews Nephrology の場合、そのコンテンツは腎臓の生理と疾患に焦点を合わせている。これに対してNature Reviews Disease Primers の視野は実に広く、既刊のNature Reviewsシリーズにもまだない、あらゆる医学専門分野(眼科学、精神神経科学、呼吸器内科学、救急医学および血液内科学)を広く網羅している。

既刊のすべてのNature Reviewsシリーズは印刷刊行物であり、毎月発行される。Nature Reviews Disease Primers は毎週発行されるオンラ イン限定刊行物である。

Nature Reviewsシリーズに掲載された最新の論文は「論点を絞ったレビュー」であり、その分野における特定の話題について考察されている。例えば、Nature Reviews Nephrology の場合、特殊な外科手術方法や特殊な透析液などに関して、その細部に至るまで探求された内容がレビュー論文として掲載されている。これに対してNature Reviews Disease Primers では、その疾患/障害に関する特異的な治療法などではなく、疫学や発症機序などの導入的内容が解説されている。さらに後述するように、複数の分野にまたがった世界的識者の手による最新のコンテンツになっている。

Primerの構成

Primerは定型構造を採用しているため(表1)、読者にとって内容が理解しやすくなっている。すべてのPrimerは、疫学、発症機序、診断、スクリーニングと予防、管理(治療)および患者のQOL(生活の質)の各セクションから構成されている。各セクションの分量は内容に応じて調整されている。しかし、すべてのPrimerには共通のゴールがある。それは、各疾患/障害の現状の解説に止まらず、将来的な課題まで言及することである。最終セクションに設けられた「Outlook」には、その研究分野での主な未解決問題や次の10年間に待ち構えている主要な課題について、著者らの先見が披露されている。

表1)Primerの構成と内容
セクション 内容
Introduction
イントロダクション
疾患/障害の定義、および病期分類、疾病分類およびその他の特徴を概説する。
Epidemiology
疫学
その疾患によって世界中でどの程度の人数が影響されているのか、世界のどの地域が特に影響されているのか、あるいは人種差または民族特異性はあるのかなど、世界的疾病負担について解説する。
Mechanisms/pathophysiology
発症機序/病態生理学
疾患/障害の原因遺伝子、または伝染性疾患であれば、その原因病原体(ウイルス、細菌など)の詳細について分子的および生化学的側面に焦点を合わせる。
Diagnosis, screening and prevention
診断、スクリーニングおよび予防
疾患/障害の診断方法(生化学検査、イメージング〔X 線、MRI など〕、および組織学〔生検〕など)について解説する。遺伝因子、環境因子、年齢、性別などのリスク因子についても考察する。必要に応じて、世界的スクリーニングプログラムおよび予防方法も考察する。
Management
管理方法
治療法の最新の(世界各国での)標準ケアおよび有害事象について考察する。内科的治療(薬剤)と外科的治療(手術)に加え、行動療法や認知 療法も概説する。
Quality of life
QOL(生活の質)
患者に直面するQOL(生活の質)の問題、および治療が与える患者への影響について考察する。平均余命、患者報告アウトカム、緩和ケアおよび併存する疾患(併存症)についても概説する。
Outlook
将来的な展望
次の5年から10年の間に取り組むべきその分野における極めて重要な研究課題について概説する。

アートワーク(artwork)の強化

図1
図1 | 拡大する
図2
図2 | 拡大する

アートワークはNature Reviewsシリーズに共通した特長であり、Nature Reviews Disease Primers も例外ではない。複雑な内容を理解しな くてはならない非専門家に役立つように、本誌では特にアートワークに注力しており、見やすいフルカラーの図とわかりやすい図説文が工夫されている(図1、2)。

著者について

その疾患/障害に関して最も信頼のおけるレビューを提供するために、本誌編集チームは世界的に認知された基礎研究者と臨床医に執筆を依頼している。Nature Reviews Disease Primers は、あらゆる分野の世界的権威を誌上で一堂に会させることにより、グローバルな学際的視点に立った研究状況の俯瞰を可能にしている。

読者について

Primerは、経験豊富な研究者や臨床医のみならず、若手研究者や医学生も含め、そのトピックスに興味を持つすべての人を読者対象としている。また、Primerは講義のサポートツールとしてもその利便性を発揮する。Primerの持つ規則性のある構造とわかりやすい解説図は、さまざまな対象に向けての講義に適している。

Primerの使用経験

先日、ある教授が学部上級生、大学院生およびMD-PhD課程の学生に向けて自身が執筆したPrimerを教材として講義を行ったところ、「Primerを活用することで、取りこぼしや、自分の専門分野でつい起こりがちなバイアスのない講義を行うことができた。

Primerのフォーマットはとても扱いやすく、ボリュームも手ごろで、その疾患に関するすべての情報が整理されているため、さまざまな角度からその疾患の講義ができた」と語った。

今回の講義は直前になって声がかかったのだが、「アートワークが豊富でバランスのとれた講義内容を短時間で準備するのに最適」と、その教授はPrimerの採用理由を挙げている。「われわれ(講師および研究者)は、絶えず時間に追われている。その疾患のすべてについて事前に準備する時間はまったくない。ましてや疾患のあらゆる側面に関して、信頼性のある論文を一つひとつあたって準備することはできない。Primerは均整の取れたボリュームとスタイルで整理されている。そのため講義では、私自身のデータをはじめ他の論文から引用したデータも交えて、各々の要点をまとめることができた」と続けた。この教授はこの年から、統合された構造とコンテンツを有する情報リソースとしてPrimerを薬理学の講義に採用している。

査読について

Primerは、数人の外部査読者による評価が行われる。科学的正確性とバランスについて好意的な査読結果が得られた場合に本誌への掲載が決定される。

編集チームの責任範囲について

Nature Reviews Disease Primers の編集チームの全メンバーが生物医学研究の経歴を有している。他のNature 関連誌とは独立して編集作業に当たっており、外部の編集委員や諮問機関は置いていない。したがって、執筆者の選定ならびに執筆依頼は本誌編集チームによって厳正に行われている。本誌はNature Reviewsシリーズの標準スタイルに従って編集されているため、読みやすくなっている。

PrimeViewについて

読者にとって、その疾患/障害のあらゆる面に関する導入的情報リソースとなるべく、すべてのPrimerにはPrimeViewとよばれるミニポスターが掲載されている(図3)。PrimeViewは、そのPrimerの重要なポイントについて一見して解るように要約されており、いわば秀逸なイラストのスナップショットを提供している。PrimeViewミニポスターは、印刷可能であり、教室をはじめ研究室やオフィスなど、目に留まりやすい場所に貼りだすことで記憶の定着にも役立てることができる。

図3:PrimeView
図3:PrimeView2 | 拡大する

創刊号のコンテンツ紹介

Nature Reviews Disease Primers の創刊号では、4つの疾患/障害が取り上げられ、各々、広い視野から捉えた内容が盛り込まれている。まず、①悪性黒色腫では、Dirk Schadendorf らによって、進行悪性黒色腫の予防方法と新しい治療法が明快に記述されている3。閉経は疾患ではないが、毎年何百万人もの女性の健康に有害な影響を及ぼしている。Susan Davis らによって執筆された②閉経では、この調節異常と卵巣機能の最終的な消失に関する発生機序に関して、現在までに明らかにされていることが整理されている4。③ハンチントン病のPrimerでは、ハンチントン病の原因となる遺伝子変異による発症機序の同定における課題が明らかにされている5。さらに、自己免疫疾患である④全身性強皮症では、皮膚だけでなく腎臓や肺などの臓器の瘢痕化によって患者のQOLが低下することが紹介されている1

いずれのPrimerも初学者はもとより、研究の幅を広げて新たな分野に挑戦する研究者にも親しめるように、明快なセクション割りと適切なボリュームになっており、それでいて学際的なコンテンツの集合体となっている。今後、トランスレーショナルリサーチの視点はますます必要性を増しており、疾患/障害に関する臨床情報を整理する上で、導入段階から基礎的知見と関連付けて理解していくことが重要である。この観点からも、Nature Reviews Disease Primers の持つ学際性と「トランスレーショナルフォーカス」のマインドが基礎から臨床への橋渡しに大いに貢献することに期待したい。

(翻訳:柳田満廣)

引用文献

  1. Allanore, Y. et al. Systemic sclerosis. Nat Rev Dis Primers. Art No.15002. (online), available from http://dx.doi.org/10.1038/nrdp.2015.2, (accessed 2015─04─30)
  2. To download this PrimeView, visit: http://go.nature.com/vX2N9s
  3. Schadendorf, D. et al. Melanoma. Nat Rev Dis Primers. Art No.15003. (online), available from http://dx.doi.org/10.1038/nrdp.2015.3, (accessed 2015─04─30)
  4. Davis, S. R. et al. Menopause. Nat Rev Dis Primers. Art No.15004. (online), available from http://dx.doi.org/10.1038/nrdp.2015.4, (accessed 2015─04─30)
  5. Bates, G. P. et al. Huntington disease. Nat Rev Dis Primers. Art No.15005. (online), available from http://dx.doi.org/10.1038/nrdp.2015.5, (accessed 2015─04─30).

Mina RAZZAK* and James BUTCHER**
PhD, Chief Editor* and PhD, Publishing Director**,
Nature Publishing Group & Palgrave Macmillan
The Macmillan Campus, 4 Crinan Street, London, N1 9XW, U.K.
E-mail: NRDP 編集長、英語のみ)/ (国内連絡先)

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