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幻覚剤の行動効果は持続時間がカギ

幻覚剤とは、知覚や認知を変化させる薬物である。幻覚剤には、神経伝達物質であるセロトニンの受容体を標的とするLSDやシロシビンなどの「古典的な」幻覚剤と、そうした幻覚剤に近い精神活性物質(MDMAやケタミン、イボガインなど)が含まれる。臨床試験では、これらの薬物が精神疾患の治療に効果がある可能性が示唆されており1–3、その効果はおそらく、これらの薬物がニューロン間のシナプス結合の形成を引き起こすなど、ニューロンの成長やシグナル伝達を変化させることに起因すると考えられる4–6。しかし、さまざまな精神活性物質によって誘発される神経可塑性には、どのような違いがあるのだろう? Nature 2023年6月22日号の790ページで、ジョンズホプキンス大学医学系大学院(米国メリーランド州ボルティモア)のRomain Nardouら7は、さまざまな幻覚剤は同じ脳領域(社会的学習に関与する領域)に作用する可能性があるが、その作用時間が異なると報告している。この知見によって、薬物に違いがあるにもかかわらず、それらの薬物が似たような治療効果をもたらし得る理由を説明できるかもしれない。

図1 社会的報酬学習の実験
社会的報酬学習とは、マウスが刺激を報酬の得られる社会的遭遇と関連付けることを学習する過程である。Nardouら7はこの能力を調べるために、幻覚剤(MDMA、LSD、シロシビン、イボガイン、ケタミン)を注射されたマウスを、48時間から4週間の間、各自のホームケージに入れた。その後マウスは、異なる床敷を置いた2つのチェンバーからなるアリーナに移された。30分後、マウスはケージメイトと共に1種類の床敷が置かれたケージに入れられ、その後、マウスは単独でもう1種類の床敷だけが入ったケージに移された。この経験によってマウスは、床敷の種類をそれぞれ社会的相互作用がある場合または孤立と関連付けるように条件付けされた。その後、マウスは最初のアリーナに戻され、2つのチェンバーのそれぞれで過ごした時間が測定された。薬物を投与されてホームケージに入れられたマウスは、生理食塩水を投与された対照マウスよりも、「社会的」床敷のあるチェンバーで過ごす時間が有意に長く、このことから社会的報酬学習が起こったことが示された。幻覚剤の効果が持続する時間は薬によって異なったが、ヒトにおいて薬物が急性に作用する時間と相関していた(図は文献7のExtended Data Fig.1から引用)。

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翻訳:古川奈々子

Nature ダイジェスト Vol. 20 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2023.230942

原文

Timing is key for behavioural benefits of psychedelics
  • Nature (2023-06-22) | DOI: 10.1038/d41586-023-01869-2
  • Samuel C. Woodburn & Alex C. Kwan
  • 共にコーネル大学マイニッヒ生体医工学大学院 (米国ニューヨーク州イサカ)に所属。

参考文献

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