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被引用回数の多い研究者が強制引用を理由に編集委員を解任

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200507

原文:Nature (2020-02-06) | doi: 10.1038/d41586-020-00335-7 | Highly cited researcher banned from journal board for citation abuse

Richard Van Noorden

生物物理学者Kuo-Chen Chouが、自身の立場を利用して、査読過程で彼の論文数十編を引用に追加するよう、論文著者に繰り返し示唆していたことが調査によって明らかになった。

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Thomas Jackson/Stone/Getty

世界で最も被引用回数の多い研究者の1人である米国在住の生物物理学者が、自分の論文の被引用回数を増やすために再三にわたり査読プロセスを悪用していたことが発覚し、ある科学雑誌では編集委員を解任され、別の科学雑誌では査読者の任を解かれたことが明らかになった。

2020年1月29日、Journal of Theoretical BiologyJTB)の3人の編集委員が同誌の論説の中で、ある編集委員に関する調査で「著しい研究不正」が確認されたためその編集委員を解任したと発表した(M. Chaplain et al. J. Theoret. Biol. 488,110171;2020)。

NatureJTB を発行するエルゼビア社(Elsevier;オランダ・アムステルダム)に対し、解任された編集委員はKuo-Chen Chou(周国城)かと問い合わせを行ったところ、エルゼビア社はこれを認めた。Chouはゴードン生命科学研究所(Gordon Life Science Institute;米国マサチューセッツ州ボストン)と称する組織を設立・運営している人物だ。JTB の論説によると、Chouは自身が編集委員として担当した数十人の論文著者に対し、自分の論文を数十編挙げ(その数は時に50編以上に上った)、これらを引用するように依頼した他、論文タイトルを変更して自分が開発したアルゴリズムに言及するように示唆したという。

オックスフォード大学出版局(英国)が出版するBioinformatics も、Chouの名は伏せてはいたが、2019年に彼を査読者から解任していた。同誌のアソシエイトエディターを務めるJonathan Wrenは、「彼が自分の論文を引用するように求めていた件数の多さに衝撃を受けました。けれども何よりショックだったのは、疑わしい引用パターンは何十年も前から見られ、また著者たちは、驚くべき頻度で彼の要請に応じていたということでした」と語る。

Chouは、2003年に製薬業界から引退してゴードン生命科学研究所を設立した。彼はこれを、誰でもメンバーになれる「物理的な境界のない」研究所と呼んでいる。彼が2003年までに出版した論文は168編で、その大半が計算生物学分野のものである。被引用回数は約2000だった。エルゼビア社の引用文献データベース「スコーパス(Scopus)」によると、Chouは今では602編の論文の著者となっていて、被引用回数は5万8000以上にもなり、世界で最も被引用回数の多い研究者の1人となっている。

JTB の論説によると、Chouは自分の研究所に所属する近しい同僚が執筆した論文も担当していたという。著者となっている同僚の一部は同誌のその後の調査で追跡することができず、編集委員会は、そうした論文が同僚により執筆されたという話の信憑性に疑問を持っている。さらにChouは時に偽名で査読を行ったり、自分の機関から査読者を選んだりしていたという。そして多くの場合、査読の最終段階でChouの名前が共著者として論文に追加されていた。

論説は、「遺憾ながら、こうしたプロセスが数十編の論文で繰り返されていた」としており、「編集システムのこれほどまでに露骨な悪用を見落としてきたことをお詫びしたい」と付け加えている。

ChouはNature に、論文が自分のアルゴリズムに言及していたのは「『査読者による強制』ではなく、アルゴリズムが非常に優れていて、多くのユーザーに認められていたから」だと語った。しかし彼は、解任の理由になった引用に関する行為については返答を拒み、自分のウェブサイトを参照するように言った。

WrenはBioinformatics での調査の後、Chouの疑わしい引用パターンについてJTB に知らせた。Bioinformatics の調査では、Chouが行った全ての査読で、論文著者に引用を追加するように求めていたことが明らかになった。彼は、1人の論文著者に対し平均35編の論文を追加するよう求めており、そうした論文のうちの90%は、彼が共著者となっているものであった。

オクラホマ医学研究財団(米国オクラホマシティー)のバイオインフォマティシャンであるWrenは、彼が疑わしいパターンを指摘した他の少なくとも3誌でも、Chouの論文の引用に関する調査が進んでいると言う。Wrenは現在、論文中の異常な引用パターンを自動的に知らせるアルゴリズムを書いていると ころだ。

今回のケースは、「強制引用(coercive citation)」の悪習を厳しく取り締まろうとするエルゼビア社の取り組みの最中に発覚した。同社は2019年に、査読を悪用して自身の論文の被引用回数を増やしている疑いのある数百人の研究者を調査していることを明らかにしていた。この発表後、最初に発覚したのがChouのケースであった。同社の広報担当者は、「幸い、稀ではありますが、このような行為は査読システムの乱用であり、学術記録の健全性を担保しようと尽力する編集者と査読者の仕事と責務を台無しにするものです」と言う。「エルゼビア社はすでにこうした悪習の発見に役立つ分析ツールを開発しており、引用の操作を出版前に知らせる技術を実装することをお約束します」。

Chouは2014年から2018年まで、引用文献データベース「ウェブ・オブ・サイエンス(Web of Science)」を所有する情報サービス会社クラリベイト・アナリティクス(Clarivate Analytics;米国ペンシルベニア州フィラデルフィア)」が作成するリストで、被引用回数の多い研究者の1人に挙げられていた。しかし、彼の名前は2019年のリストには登場しない。クラリベイト・アナリティクス社はこの年、論文に「異常に高いレベルの自己引用」が見られる科学者を除外することを決めたからだ。

エルゼビア社の広報担当者によると、Chouが担当した、彼の論文を大量に引用する論文をこの後どうするかについては、まだ決まっていないという。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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