Editorial

化学構造を楽にきちんと描けるツール

Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180242

原文:Nature (2017-11-16) | doi: 10.1038/d41586-017-05898-6 | Chemists get faster on the draw

NatureとNature関連誌は、化学構造式の描き方の手引きとテンプレートを公開した。

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Yagi Studio/DigitalVision/Getty

有機化学の講義を思い出してほしい。ベンゼン環の構造式は、六角形の中に円を描いて、非局在化した電子雲を表現していただろうか。もしそうなら、あなたは年配者ということになる。現在は、六角形の中に3つの二重結合を描くのが通例だ。

分子をどのように図示するかは重要な問題であり、文献に示される分子の姿が美しくなかったり、一貫性がなかったりすることは気になる。そこで、NatureとNature関連誌は、化学の専門家にも素人にも役立つ2つのツールの提供を始めた(go.nature.com/2zvoeza参照)。1つは分子の化学構造の描き方の手引きで、論文著者が分子をどのように描くべきかが詳しく記載されている。もう1つは、それに関連したテンプレートで、ChemDrawを使ってこの手引きに準拠した分子の図示ができるようになっている。(両方のツールは、NatureとNature関連誌の「投稿の手引き(For Authors)」から入手できる)。我々は、特に化学が専門でない研究者のために、分子の図示を簡易化することを目指している。

化学において外観と美観は重要な役割を果たしている。有機化学者は、自ら考案した天然物や医薬品の合成法を「優雅(elegant)」「魅力的(attractive)」と評することが多い。また、化学合成が提起する創造力に対する課題は、人々が「本を書き、絵を描き、美と実用性の一方または両方を備えたモノを作り出す」限り、決して色あせない、とロバート・バーンズ・ウッドワード(1965年ノーベル化学賞受賞者)は指摘した。そして、19世紀にフランスの化学者マルセラン・ベルテロが「化学によって独自のモノが作られる」と語った。このことは、分子の芸術家のイメージを想起させる。

こうした姿勢は、記述される科学ではなく、主として描かれる科学と整合している。ベンゼンを例にとって説明すると、1858年にアウグスト・ケクレとアーチボルド・スコット・クーパーという2人の化学者が、炭素原子同士が結合するという化学構造論をそれぞれ独自に提唱した。その後、さまざまな原子が結合する様子を示す記号言語が発明され、化学者はこの言語を使ってフラスコの中で起こっていたことを示す方法を得た。自らの尾をかんで、輪の状態になっているヘビ(ウロボロス)の夢を見たケクレが、ベンゼンの六員環構造を思いついたという話は有名だ。それ以降、電子、共有結合、量子力学、分子形状に関する理解が進むにつれて、化学構造の描写方法に数々の修正が加えられていった。

同じくらい重要なのが見せ方だ。合成可能な分子の複雑度がますます高くなってきており、最新の設計原理を組み込む必要がある。分子機械の作製に果たした役割が認められて2016年のノーベル化学賞の共同受賞者となったノースウェスタン大学(イリノイ州エバンストン)のフレイザー・ストッダートは、論文の中で色を使って分子のいろいろな部分を表現したことで有名だ。ストッダートの論文では、さまざまな原子スケールのポンプとスイッチ、結び目が図示され、関係する化学反応が漫画によって説明されている。このように、化学者の中には、独創性にあふれる芸術家がいる。

そのため我々は、NatureとNature関連誌における化学構造の表現方法の標準化にとどまらず、研究者が生命の分子の複雑さをはっきりと描く上で、我々の手引きとテンプレートが役立つことを期待している。また、画像描画ソフトに慣れていない場合には、テンプレートを使うことで化学構造を描けるだけでなく、化学的に不可能な現象に近い「テキサス」炭素(構造式がテキサス州の州章に似ていることから名付けられた)などを避けることもできる。この手引きとテンプレートは、全てNatureのスタイルとスケールに準拠しており、論文著者と編集者の双方にとって労力の節約になる。我々がこれらのツールを公開するのは、直感を鈍らせるためではなく、ユーザーがほとんど手間をかけずに化学構造を描けるようにするためだ。あとは新規物質の合成に取り組んでほしい。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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