News in Japan

生命誕生のカギを宇宙に探す新拠点誕生!

Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2016.160220

取材:編集部

20年先の自然科学研究を考える自然科学研究機構(NINS)に、「アストロバイオロジーセンター(ABC)」が誕生した。2015年4月に創設され同年11月20日に開所式を迎えた同センターは、系外惑星探査を主軸に生物学、生命化学、地球物理学などとの融合研究を行い、宇宙における生命誕生と進化の謎に挑む。キャンパスは、東京都三鷹市にある国立天文台に構えている。

拡大する

写真提供:国立天文台

惑星は、恒星の周りを回る天体で、それ自体が暗い上に近くに明るい恒星があるために発見が難しい。実際、惑星が太陽系に似た恒星の周りに初めて確認されたのは1995年と、紀元前から続く天文学の歴史を考えれば「ごく最近」のことである。その後、探査機ケプラーや地上のさまざまな観測により次々と系外惑星が見つかり、惑星の大きさや軌道は、太陽系内の惑星から予想していたよりもずっと多様であることが分かってきた。

「これまでは太陽系をもとに惑星形成の標準理論が作られてきましたが、それでは説明がつかない。『標準』がなくなり、皆困ってしまったのです」と、アストロバイオロジーセンター(ABC)の田村元秀センター長は言う。

惑星はどのように生まれたのか。それを解明するには多様な系外惑星の存在を説明できる新たな惑星形成理論の構築が必要だ。それに系外惑星がこれだけ見つかってくると、次は必然的に地球と同じように「そこに生物がいるかどうか」が関心事となる。広大な宇宙の中で我々が知っている生物は、太陽系の地球という惑星に存在するものだけであり、生物学においても惑星形成理論と同様の問題にぶつかる可能性があるのだ。生命が誕生する環境がどのようにでき、生命がどう進化してきたかを探求する「アストロバイオロジー」は、学問としては比較的新しいが、こうした背景ゆえに天文学・宇宙物理学だけでなく、生物学や化学や地球惑星科学などの英知を集結する必要があり、幅広い領域にまたがる大きな研究分野といえる。

3つの戦略

これまでに、主星からの距離が適度で生命が誕生可能な「ハビタブルゾーン」にある系外惑星が30個以上見つかっている。ほとんどが探査機ケプラーによる発見だが、これらの系外惑星は遠すぎて詳しく調べることができない。そこでABCではまず、直接観測が可能な距離にある地球型惑星を探し、次に、そこに生物が存在しているかどうかを精査するという戦略を敷く。当面の標的は、太陽よりも小さいM型星と呼ばれる恒星を周回する、地球型惑星だ。M型星は太陽のような恒星よりも数が多く、また、ハビタブルゾーンは主星に近い所になるため、ドップラー法で惑星を検出しやすいというメリットがある。一方で、M型星は温度が低く暗いため、その観測には赤外線を捉える特別な装置が必須になる。

この戦略を実行するため、ABCには3つのプロジェクト室が設けられている。①すばる望遠鏡と30メートル望遠鏡(TMT)を使い、惑星の直接観測が可能なハビタブルゾーンにある地球型惑星を探す「系外惑星探査プロジェクト室」、②生命の兆候を観測により見いだす「宇宙生命探査プロジェクト室」、③望遠鏡の解像度と感度の向上や、バイオマーカー検出装置の開発を担う「アストロバイオロジー装置開発室」だ。

①で見つかった惑星は、生命の兆候を写真に捉えることができる可能性がある。例えば、1991年にボイジャー1号が60億kmかなたから地球を撮影したところ、海や植物、砂漠、雪などで反射された光が薄暗い青い点として写った(ペイル・ブルー・ドットと呼ばれる)。つまり、地球には生命活動の兆候が観察できるというわけだ。発見した惑星にそうした目印を探すのが②で、この研究のカギを握っているのは、極限環境に生きるアーキア(古細菌)などの生物であろう。また酸素があれば、地球の植物のような生物が存在する可能性もある。葉にあるクロロフィルは、可視光をよく吸収する一方で赤外線を反射するため、その境目にあるレッドエッジと呼ばれる波長(約700〜750nm)は、植物の存在を示すバイオマーカーになり得る。

ABCは2015年9月、生物が存在しない惑星でも、酸化チタンの光触媒反応により地球と同程度の酸素大気が発生し得ることを理論的に証明した1。酸素はバイオマーカーとしては条件付きであることを示したのと同時に、水、紫外線、電子受容体(電子を奪う酸化剤)の4つがそろう惑星では酸素を利用する生命に進化していく可能性があることを示したともいえる。実際、酸化チタンは宇宙では決して珍しい物質ではなく、地球だけでなく太陽系の他の地球型惑星や衛星などにも存在していることが知られている。

新分野を作り上げる

拡大する

写真提供:国立天文台

地球を含む宇宙全体に生物の起源と進化の手掛かりを探すアストロバイオロジーは、複数の分野にまたぐ学問ゆえ、「研究者の数だけアストロバイオロジーがある」と田村センター長は話す。それに、地球を超えた場所に生命を探す壮大なプロジェクトであるから、当然のことながら、分野も国も超えた連携が必要だ。ABCは世界的に研究が活発な系外惑星探査を軸にしており、NASA(米航空宇宙局)が認める公式国際パートナーでもある。その強みを生かし、国際規模のワークショップ開催や、第一線で活躍する海外研究者の招聘を積極的に行っていくという。

また、若手育成にも力を入れており、文部科学省の「世界トップレベル研究拠点プログラム」(WPI)拠点の1つである東京工業大学 地球生命研究所(ELSI;東京都)と連携しているだけでなく、共同研究プロジェクトの公募も行っている。

アストロバイオロジーを大学で学びたいと思っても、これを専門に学ぶ学科はまだない。田村センター長は、「天文学、惑星科学、生物学など、興味を持っている分野をまず学ぶことから始めるのがいいと思います。ポスドク以降は、当機構やELSIのような受け皿ができつつありますから、チャレンジングな分野ですが安心して研究に参画できるはずです」と話す。

地球外生命体の探査はますます熱を帯びており、最近では、火星や、土星と木星の衛星に生命が生存可能な環境があることが示されつつある。こうした報告を受け、現在NASAは火星における生命探査に力を注いでおり、2015年4月には「地球外生命体の兆候は10年以内に見つけることができるだろう」と宣言した。これに対しABCは、太陽系を超えた場所でのアストロバイオロジーの展開を目指しているといえるだろう。技術の進歩により、第二の地球の発見どころか、そこに生命を求めることができる時代が来たのだ。

参考文献

  1. Narita, N., Enomoto, T., Masaoka, S., Kusakabe, N. Scientific Reports 5, 13977 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

プライバシーマーク制度