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グラフェンの新たな利用価値:プロトン透過能と防弾性

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150204

原文:Nature (2014-11-27) | doi: 10.1038/nature.2014.16425 | Bullet-proof armour and hydrogen sieve add to graphene’s promise

Richard Van Noorden

注目の素材グラフェンに、プロトンを透過する能力と、「弾丸」の衝撃を吸収する能力があることが、新たに明らかになった。

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炭素原子わずか1個分の厚さからなり、最も薄く、最も強い素材として知られるグラフェン。この二次元シート材料は、発見・単離から10年経つが、今なお新たな驚きをもたらし続けている。今回、周囲条件下ではいかなる原子や分子も通さない完全な単層グラフェンが、プロトンであれば容易に通すことが明らかになった一方で、多層グラフェンが、鋼鉄やコンポジットケブラー防弾材よりも優れた「防弾性」を備えていることが実証されたのだ。前者はNature 2014年12月11日号227ページ1、後者はScience 2014年11月28日号で報告された2

プロトン輸送

今回発見されたグラフェン単層のプロトン透過能は、グラフェンが、空気から水素をふるい分ける分離膜や、燃料電池において水素からエネルギーを抽出する超薄膜として使用できる可能性を示していると、Nature論文1の著者でマンチェスター大学(英国)の材料科学者Andre Geimは言う。彼は、2004年の先駆的なグラフェン研究を率いた1人で、2010年にその功績によりノーベル物理学賞を受賞している。

燃料電池は、電気化学反応によって水素などの燃料物質が持つ化学エネルギーを電気エネルギーへと変換する。水素を利用した燃料電池では、負極において水素(H2)がプロトン(H+)と電子(e-)に分解され、生じた電子が外部の回路を通って正極へと移動する際に電流が作り出される。このとき、プロトンは電池内の膜を通って移動し、正極で電子および酸素(O2)と反応して、水(H2O)を生じる。現在、燃料電池で2つの電極を隔てる膜として用いられている「ナフィオン」などの市販のプロトン交換膜は、厚さが数十マイクロメートルあるにもかかわらず、水素燃料の漏出を完全に防ぐことはできていない。また、その厚さゆえにプロトン輸送能にも限界があり、電池の出力が限られてしまっている。これらの問題は、プロトンのみを選択的に通す、薄くて強い膜があれば一挙に解決するだろう。それにはグラフェンが最適だとGeimは話す。彼らは今回の研究で、六方晶窒化ホウ素の単原子層にも優れたプロトン輸送能があることを示している。

燃料電池の専門家は、今回の研究は原理証明であり、応用に即座に結び付くとは断言できないと慎重な姿勢を見せる。実用化には、十分な大きさの清浄なグラフェンシートの作製方法やそれにかかる費用、また寿命などを考慮に入れる必要があるからだ。Geimらはすでに、グラフェン膜によるろ過で水から純粋な水素を抽出することに成功しており、同様の手法で空気から水素の抽出も可能なのではないかと考えている。

強力な防弾材

グラフェンの強度が他のどの材料よりも優れていることは、ダイヤモンドチップを押し付けたときの抵抗の測定によって、既に証明されている。今回のScience論文2では、そんな最強素材の衝撃吸収能力が微小なシリカ製の「弾丸」を使って初めて検証された。

厚さ10〜100nmの多層グラフェン(最大で300層)の標的に、直径3.7µmのシリカ球を3km/s近い速度で打ち込んだところ、弾丸は全ての場合においてグラフェン層を貫通したが、その周囲には花弁に似た特徴的なパターンが現れていた。これは、グラフェン層が破れる前に応力を波のように外側へ急速に拡散させ、衝撃エネルギーを分散した証拠だと、論文の著者であるライス大学(米国テキサス州ヒューストン)のEdwin Thomasは説明する。物質中では引張応力の伝播が音速を超えることはないため、この効果の上限はグラフェン中を伝わる音の速度となる。軽くて硬いグラフェンにおける音の伝播速度は約22km/sで、これは空気中の速度332m/sに比べてはるかに速いばかりか、既知のどんな素材よりも速い。また、今回の研究では、弾丸がグラフェンを貫通するのに必要なエネルギーは、鋼板のおよそ10倍であることも示されており、多層グラフェンとその他の軽量高強度材料を組み合わせることで「非常に有望な防弾材ができる可能性があります」とThomasは言う。

大量生産という課題

こうした最新の研究結果からは、グラフェンのさらなる可能性がうかがえる。だが、グラフェンの実用化は全て、基準を満たす高品質のグラフェンシート(あるいはグラフェンを含むコンポジット材料)を大量生産できるかどうかに懸かっている。すでに数百の用途についてグラフェンの応用が試みられているものの、現在はまだ品質とコストの両立が難しいのが現実だ。

(翻訳:藤野正美、要約:編集部)

参考文献

  1. Hu, S. et al, Nature http://dx.doi.org/10.1038/nature14015 (2014)
  2. Lee, J.H., Loya, P. E., Lou, J. & Thomas, E. L. Science 346, 1092–1096 (2014).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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