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SETIに舞い込んだ思いがけない幸運

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2015.151018

原文:Nature (2015-07-23) | doi: 10.1038/nature.2015.18016 | Search for extraterrestrial intelligence gets a $100-million boost

Zeeya Merali

ロシアの億万長者Yuri Milnerが地球外知的生命体探査(SETI)プロジェクトに1億ドルを贈った。

地球外生命体を探す3基の望遠鏡のうちの1つ、米国ウェストバージニア州のグリーンバンク望遠鏡。 | 拡大する

WALTER BIBIKOW/JAI/CORBIS

「耳が痛くなるような沈黙」とでも言おうか。地球外知的生命体探査(Search for Extraterrestrial Intelligence:SETI)プロジェクトは、地球外文明が存在する証拠を求めて50年以上も宇宙に耳を澄ましているものの、まだ何も探知することができずにいる。2015年7月20日、ロシアの億万長者Yuri Milnerが、英国ロンドンの王立協会で、そんなSETIへのカンフル注射となる10年プロジェクトを発表した。1億ドル(約120億円)という巨額の費用を投じて、これまでで最も包括的な探索を行うというのだ。

「ブレイクスルー・リッスン(Breakthrough Listen)」と名付けられたこのプロジェクトは、米国立電波天文台のグリーンバンク望遠鏡(ウェストバージニア州)、パークス天文台(オーストラリア)の電波望遠鏡、リック天文台(米国カリフォルニア州)の光学望遠鏡を使って、銀河系と近隣の100個の銀河の100万個の恒星を調べる。プロジェクトリーダーの1人であるカリフォルニア大学バークレー校(米国)のSETI科学者Andrew Siemionは、「これまでの探査では1年間に1基の望遠鏡を約24~36時間しか使うことができませんでしたが、これからは最高の望遠鏡を1年に何千時間も使うことができるのです」と言う。「革命としか言いようのない変化です」。

Milnerは探査の強化を支持する公開状も発表した。この公開状には、物理学者Stephen Hawkingをはじめとする大勢の科学者が共同署名している(訳註:日本人では2012年にノーベル生理学・医学賞を受賞し、2013年に後述のブレイクスルー賞を受賞した山中伸弥教授が署名している)。立ち上げイベントでは、そうそうたる出席者の前で、Hawkingが「無限の宇宙には、私たちの他にも生命体がいるはずです。これ以上重大な問題はありません。今こそ本気で答えを探すときなのです」と語った。

SETIプロジェクトでは、特定の周波数に集中している信号や、規則的に繰り返される信号など、人為的に発信されたように見える電波信号や光学信号を探している。しかし、SETIへの支援は不安定で不規則だった。例えばNASAは、1990年代初頭にはいくつかの探査に資金を提供していたが、1993年に打ち切っている。現代のSETIの先駆者であり、ブレイクスルー・リッスン・プロジェクトのメンバーでもあるFrank Drakeは、「最近では、全世界の支援金額を合計しても50万ドル(約6000万円)程度でした。その大半が米国人からの支援で、全てが個人的に贈られたものでした。そんな私たちが1億ドルを手にするのですから、これだけでも目覚ましい前進です」と言う。

このプロジェクトに資金を提供するMilnerは、フェイスブックをはじめとするインターネットビジネスへの投資によって財をなした人物で、2012年に生命科学、基礎物理学、数学の各分野で優れた業績を挙げた研究者に300万ドルという高額の賞金を授与する「ブレイクスルー賞」を創設して話題になった(Natureダイジェスト 2012年11月号「超高額の『基礎物理学賞』が誕生!」参照)。大学で素粒子物理学を専攻した彼は、「SETIには1961年から興味を持っています」と冗談を言う。1961年は、彼が生まれた年である。ロシアの宇宙飛行士ユーリ・ガガーリン(Yuri Gagarin)にちなんだ名前を付けられたことで、生まれながらに宇宙への憧れと地球外生命体への興味を植え付けられたというのが彼の言い分だ。

押し寄せるデータ

今後、小さなSETIコミュニティーには大量のデータが押し寄せることになる。これまでのSETIプロジェクトの1年分の収集データと同じ量が、わずか1日で集まってしまうかもしれない。データは公開され、SETIプロジェクトのファンたちも探査に参加できる。ブレイクスルー・リッスン・プロジェクトは、すでに定着しているSETI@homeプロジェクトとも提携する。SETI@homeは、インターネットに接続した一般市民のパソコンを使ってデータ処理を行うプロジェクトだ。Milnerによれば、プロジェクトの成果は全員に平等に帰属するという。彼は、地球外生命体探査では透明性を何よりも大切にしなければならないと考えている。「陰謀論を唱える人が山ほどいますからね」。

Drakeは、ブレイクスルー・リッスン・プロジェクトが天文学コミュニティー全体に良い影響を及ぼすだろうと考えている。今回の投資は、老朽化しつつあるグリーンバンク望遠鏡とパークス望遠鏡を廃止の危機から救った。各国政府は、スクエア・キロメートル・アレイ(Square Kilometre Array:SKA)などの大規模で高解像度の望遠鏡プロジェクトに投資するため、こうした古い望遠鏡への資金を削っているのだ。SETIプロジェクトの観測は、多くのパルサーを発見し、持続時間がわずか数ミリ秒という謎めいた「高速電波バースト」の起源の解明にも役立つだろう。

ブレイクスルー・リッスン・プロジェクトの探査戦略はまだ決まっていないが、探査対象の全ての星について、約1~10ギガヘルツ(GHz)の周波数帯の信号を探すことが最初の仕事になるだろう。この周波数帯の信号はほとんど混信を起こすことなく星間空間を旅して地球に到達できるので、地球外生命体が意図的に通信を行うのに適していると考えられているからだ。「これまではとびとびの周波数しか観測できませんでしたが、今後は連続的に観測することができます」とSiemionは述べる。

これだけ大規模な探査をしても何も見つからない可能性があることは、Milner自身も認めている。その場合、天文学者は「この範囲の宇宙には知的生命体はいない」と言うことができるだろう。「けれども、10年後にこのプロジェクトが終わる頃には、私たちはもっと進んでいて、次の10年プロジェクトの戦略を練ることができるでしょう。それが終わる頃には、さらにその次の10年プロジェクトの計画を立てているかもしれません」とMilnerは話す。

(翻訳:三枝小夜子)

※編集部註:Milnerは、「ブレイクスルー・リッスン(Breakthrough Listen)」と、「ブレイクスルー・メッセージ(Breakthrough Message)」からなる「ブレイクスルー・イニシアチブ(Breakthrough Initiatives)」として発表している。ブレイクスルー・メッセージは、地球外知的生命体に向けたメッセージを考えるプロジェクトで、これにも同額の1億ドルが投じられる。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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