Author interview

非静脈瘤性上部消化管出血

藤城 光弘氏

掲載

―― 今回のPrimer「Non-variceal upper gastrointestinal bleeding(非静脈瘤性上部消化管出血)」について、インパクトはどこにあるとお考えでしょうか?

非静脈瘤性上部消化管出血(NVUGIB)は、生命を脅かしうる消化器救急として日常で経験することの多い疾患の一つです。そのような状況を鑑み、本総説では、診断と治療のみならず、疫学、病態生理、患者のQOL、本分野の将来展望まで、NVUGIBのすべてを、その道の世界的権威が共同執筆した点にインパクトがあると思います。今までに類を見ないNVUGIBに関する総説であるのではないかと思います。

―― どのような新たな知見や視点が紹介されたのでしょうか?

NVUGIBの大多数は消化性潰瘍に起因するため、「NVUGIB=消化性潰瘍出血」として記載している総説が多いのですが、本総説では、消化性潰瘍出血を中心に、マロリーワイス症候群や血管性病変など、NVUGIBの潰瘍出血以外の原因についても十分言及しています。また、最新の知見をもとに、NVUGIB全体を俯瞰した病態生理を図解したほか、診断と治療のセクションには、日本には導入されていない医療機器も紹介しました。さらに、近年、急増しているDOAC服用者の管理法なども詳細に記載しています。

―― 診断、治療、予防などにどのように生かせるとお考えでしょうか?

今までに、これだけ詳しくNVUGIBの病態生理について纏められたNVUGIBの総説はなかったと思います。臨床において、本総説を片手に、病態生理に基づいたNVUGIB診療を行うことが可能です。また、本内容を日本の現状に即した形で要約することで、患者さんへの病状説明、治療同意取得の際の説明などにも大変役に立つと思います。

―― 非静脈瘤性上部消化管出血において、残された謎、解明すべき病態等はございますか?

NVUGIBの原因として多くを占める消化性潰瘍の原因は、ヘリコバクターピロリ感染か、非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAID)や低用量アスピリンなどの薬剤だと説明されてきましたが、近年、いずれにも関与せずに、消化性潰瘍出血を起こす症例が増えており、全症例の10〜30%に上ると言われています。今後は、その実態を明らかにし、病態解明と最適な診療に向けた知見の集積が求められるといえます。また、内視鏡的な出血状態の分類には、1974年に提唱されたForrest 分類が今も広く日常診療で用いられていますが、最近、再出血リスクが高いとされてきたIbタイプの再出血リスクが「実は極めて低い」との報告がなされているなど、当時より格段に進歩した内視鏡機器、技術に立脚した新たな内視鏡的な分類の作成が必要だと感じています。

―― 日々の臨床やご研究において、どのような工夫をされていますか? また、どのようなご苦労がございますか?

大学病院において最適な診療を提供することは当然です。しかし、それに加えて、大学病院には研究という大きなもう一つの柱があります。同じ疾患名でも、病態や病期、診療内容、予後が、一人一人違います。私は、こうした症例の一つ一つが研究の対象者であるという視点をもって、患者さんには接するようにしています。その根底にある普遍的な原理原則を導き出せれば新たな発見につながりますし、「こういうものがあれば患者さんの役に立つのに」という思いは、新たな医療機器開発につながるものと思っています。とはいえ、大学病院では診療の占めるウェイトが年々増加しており、理想と現実のはざまで苦悩する日々です。

―― この領域を目指す若手臨床医や研究者に一言アドバイスをお願いいたします。

NVUGIBは日常的に遭遇する疾患であり、最先端医療・医学の分野ではないと感じるかもしれませんが、実はまだまだ分かっていないことも非常に多いのが現状です。ぜひ多くの若手臨床医に、自身の臨床的疑問を解明すべく、一流誌の総説に引用されるような基礎、橋渡し、臨床研究をしてほしいと願います。世界中に患者がいる疾患ですので、多くの方々の福祉に貢献するやりがいのある分野だと思っています。

聞き手は、西村尚子(サイエンスライター)。

非静脈瘤性上部消化管出血

Non-variceal upper gastrointestinal bleeding

Nature Reviews Disease Primers 4 Article number: 18020 (2018)

Author Profile

藤城 光弘

藤城 光弘氏

国立がんセンター中央病院、東京大学消化器内科(光学医療診療部)において、消化器内視鏡学、特に内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)の開発・改良に関する研究を精力的に行い、ESDの世界的な普及に貢献するとともに、現在まで、消化器内視鏡をキーワードに数多くの医療・医学の進歩に資する研究を行っている。

1995年 東京大学医学部医学科卒業
1997年 国立がんセンター中央病院 消化器内科
2004年 東京大学大学院 医学系研究科内科学博士課程修了
2005年 東京大学医学部 消化器内科助手
2007年 東京大学医学部 消化器内科助教
2009年 東京大学医学部 光学医療診療部部長・准教授
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