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幹細胞:p53はヒト多能性幹細胞でCRISPR–Cas9による改変を抑制する

Nature Medicine 24, 7 doi: 10.1038/s41591-018-0050-6

CRISPR–Cas9は、ヒト細胞でのゲノム改変やゲノム規模のスクリーニング実施に大変革をもたらした。細胞種の中にはゲノムを改変しやすいものもあるが、ヒト多能性幹細胞(hPSC)のゲノムは改変が難しく、腫瘍細胞株やマウス胚性幹細胞に比べると効率が低い。本論文では、hPSC株にCas9を安定に組込む方法、あるいはCas9–リボ核タンパク質(RNP)を一過的に送達する方法を用いて、80%を超える平均インデル(挿入や欠失)効率を達成したことを報告する。このような高効率でのインデル作製により、Cas9によって誘導された二本鎖切断(DSB)が毒性を持ち、hPSCの大部分に細胞死を起こさせることが明らかになった。これまでの研究では、hPSCにおけるCas9の毒性はこれほど明らかではなかったが、それはトランスフェクション効率が低く、その後のDSB誘導も低減していたためである。DSBに対する毒性応答はP53/TP53依存性で、そのため、野生型P53遺伝子を持つhPSCでの正確なゲノム改変の効率が顕著に低下していた。我々の結果は、hPSCでのゲノム改変やスクリーニングへのCRISPR–Cas9のハイスループットな使用が、Cas9の毒性によって妨げられていたことを示している。また、hPSCはP53の変異を獲得することがあるので、CRISPR–Cas9による改変を行ったhPSCを用いる細胞置換療法は慎重に進めるべきであり、また、このような改変されたhPSCではP53機能を監視しなくてはいけない。

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