Volume 52 Number 2

滑って二重らせんになるDNA

表紙は、分子遺伝学の講義でスリップ構造のDNAを説明するときに、しばしば例えとして使用される図だ。ワトソン–クリック型の塩基対を形成するDNAの二本鎖は、ジッパーに例えられるのである。通常は、ジッパーの「歯」はピタリと組み合わさるが、DNAの反復配列の部位では、歯がズレて並んでしまうことが起きる。その結果、ジッパーがかみ合わない箇所ができて、スリップ構造が生じてしまう。病気の原因となるCAG/CTGの反復配列部位に、このようにしてスリップ構造が生じると、次に、誤ったDNA修復が行われ、反復配列の変異が作り出されてしまう。この現象は、ハンチントン病など、少なくとも17の神経変性および神経筋疾患の原因となることが知られている。影響を受けた組織では反復配列の伸長が進み、それが病気の発症、進行、重症化に影響する。体細胞での反復配列の伸長を抑えたり、元に戻したりできれば、病気の発症、進行、重症化を抑えたり、回復させたりでき得る。今回、ハンチントン病のモデルマウスを用いて、反復配列の伸長過程を標的にスリップ構造特異的に結合する小分子を作用させた。すると、ハンチントン病患者の脳の線条体の、病気の影響を受けやすい領域の細胞において、伸長した反復配列の短縮を引き起こすことができたのである。つまり、この治療法は、疾患の原因である反復配列の伸長を元に戻すことができるのだ。

参照論文:Nakamori et al.
画像:Christopher Pearson
表紙デザイン:Erin Dewalt

目次

注目のハイライト

その他のハイライト

Editorial

News & Views

ハンチントン病:伸長した反復配列を短縮させる低分子

A small molecule kicks repeat expansion into reverse p.136

doi: 10.1038/s41588-020-0577-6

Letter

ヘモグロビンスイッチイング:LIN28BはBCL11Aの翻訳を抑制してヒトヘモグロビンスイッチングを制御する

Control of human hemoglobin switching by LIN28B-mediated regulation of BCL11A translation p.138

doi: 10.1038/s41588-019-0568-7

Articles

ハンチントン病:スリップしたCAGを標的とするDNA結合低分子はin vivoにおいて3塩基リピートの短縮を誘導する

A slipped-CAG DNA-binding small molecule induces trinucleotide-repeat contractions in vivo p.146

doi: 10.1038/s41588-019-0575-8

緑内障:緑内障の多形質解析は新たなリスク座位を見つけ出し、疾患感受性と疾患の進行に関する多遺伝子予測を可能にする

Multitrait analysis of glaucoma identifies new risk loci and enables polygenic prediction of disease susceptibility and progression p.160

doi: 10.1038/s41588-019-0556-y

腎代謝:尿中代謝物の遺伝学的研究から、ヒトにおける解毒と排泄の機構が明らかになる

Genetic studies of urinary metabolites illuminate mechanisms of detoxification and excretion in humans p.167

doi: 10.1038/s41588-019-0567-8

肺腺がん:東アジア人における肺腺がんゲノムの全体像

Genomic landscape of lung adenocarcinoma in East Asians p.177

doi: 10.1038/s41588-019-0569-6

乳がん:ARID1AはHDAC1/BRD4活性、内因性増殖能および乳がんの治療奏効性に影響を与える

ARID1A influences HDAC1/BRD4 activity, intrinsic proliferative capacity and breast cancer treatment response p.187

doi: 10.1038/s41588-019-0541-5

乳がん:ARID1Aは管腔のアイデンティティーとエストロゲン受容体陽性乳がんにおける治療応答を決定する

ARID1A determines luminal identity and therapeutic response in estrogen-receptor-positive breast cancer p.198

doi: 10.1038/s41588-019-0554-0

がんゲノム:ヌクレオチドの配列の前後関係に基づいたがんドライバー遺伝子の特定

Identification of cancer driver genes based on nucleotide context p.208

doi: 10.1038/s41588-019-0572-y

オルガノイド:統合的マウスモデルにおける早期のTP53変異は、環境曝露による胃の前がん病変の促進をもたらす

Early TP53 alterations engage environmental exposures to promote gastric premalignancy in an integrative mouse model p.219

doi: 10.1038/s41588-019-0574-9

膵腺がん:膵腺がんの転写表現型は腫瘍進化の際のゲノム事象によって引き起こされる

Transcription phenotypes of pancreatic cancer are driven by genomic events during tumor evolution p.231

doi: 10.1038/s41588-019-0566-9

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