教材活用事例

宇宙初期の「地図」作成から25年

宇宙のあらゆる方向から届くマイクロ波背景放射。このマイクロ波を全天で観測を行ったCOBEの観測から今年で25年が経った。映像では、計画を進めた研究者がどれほど期待を込めて研究を進めたかが収録されている。COBEからPlanck衛星まで、宇宙論にどのような進展があったのか、振り返ってみよう。

宇宙でマイクロ波をとらえたCOBE

2017年は宇宙論での大発見がもたらされて25年の節目だ。1992年4月23日、アメリカ航空宇宙局(NASA)はマイクロ波観測衛星COBE(COsmic Background Explorer)による観測結果の画像を公開した。これは、ビッグバンのころの光の名残である宇宙マイクロ波背景放射の人類が初めて捉えた画像であり、宇宙が誕生した直後がどのようであったかを明らかにするものだ。現在では、宇宙誕生のころの光はマイクロ波の波長となって宇宙を移動しており、宇宙のあらゆるところからやってくる。

宇宙論を研究しているJohn Matherは大学院生のころ、上空に飛ばしたバルーンで宇宙からやってくるマイクロ波を観測するプロジェクトに関心をもった。その後、NASAに勤務した Mather は、宇宙空間でマイクロ波を計測するプロジェクトの中心人物の一人になった。マイクロ波背景放射は1964年に最初に発見されたが、地上で全天のマイクロ波を正確に計測することはできなかった。そこで、宇宙マイクロ波背景放射を宇宙で観測するために計画された衛星がCOBEだ。開発には15年を費やし、1,500人もの研究者や技術者が参画したという。

打ち上げから数週間後の1990年初め、COBEは観測結果を送信してきた。この頃、宇宙はビッグバンから生まれたという「ビッグバン理論」の証明を研究者は求めていたが、確実なデータは得られていなかった。COBEが地球に送ってきたデータをグラフ化すると、ビッグバン理論を裏付ける結果となったのだ。

人類が手にした宇宙誕生直後の姿

COBEによるさらなる発見をMatherは振り返り、「第二の大発見は、宇宙には高温のところと低温のところがあったことです。私たちはそのことを『非等方性』と名付けました」と話す。この発見は今から25年前、George Smootによって明らかにされた。COBEは全天のマイクロ波背景放射の温度のずれを計測したのだ。その結果は、宇宙がまだ赤ん坊(といっても40万歳だが)の頃の姿を示している。この地図は、宇宙が生まれてすぐの素粒子が、どのように密度の高い領域へと集まったかを示す非常に重要なものだ。密度の高い領域は、数百万年後にやがて星や銀河を形成していく。

MatherとSmootが2006年にノーベル物理学賞を受賞したことと、COBEの偉大な発見は若い科学者に夢を与えた。Jan Tauberは欧州宇宙機関でCOBEの追観測をするための観測衛星(Planck衛星)のプロジェクトに取り掛かった。Planck衛星はCOBEに比べて、宇宙マイクロ波背景放射をより明確に詳細な状況を捉えられるものだったが、観測結果はCOBEの結果ともよく一致した(関連のNatureダイジェストの記事は、このPlanck衛星の結果について詳細に示されている)。Tauberは「本当に胸が高鳴りました。COBEの観測した領域の結果とPlanck衛星の結果が、美しいまでに一致したのですから」と話す。

さらなる謎の解明に向けて

宇宙マイクロ波背景放射の研究の進展により、宇宙論は大きく発展した。宇宙の誕生から138億年が経過していることから、暗黒物質が存在する兆候までも明らかにしたのだ。では、宇宙マイクロ波背景放射はすべての秘密を明らかにできたのだろうか。

Matherは、Planck衛星が重力波についての知見をもたらすかもしれないと話す。宇宙のごく初期に、重力波の痕跡が存在するのかどうかは、宇宙論研究者にとって重大な関心事項だ。重力波のさざ波は、宇宙が微小なものから宇宙論的な大きさへと一瞬のうちに膨張した「インフレーション理論」に間違いのないことを確認できる可能性がある。

現在のところ、重力波の痕跡についての知見を得るために、Planck衛星で得られたデータの解析が進められており、2017年末までにはデータが公開される予定だ。Planck衛星によって宇宙初期の重力波の存在が明らかになるかもしれない。

Nature ダイジェスト で詳しく読む!

初期宇宙の最も高精度な「地図」

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130618

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

本文中に登場した「暗黒物質」。見えない物質が宇宙に存在することが観測結果から明らかになったのは1970年代のこと。観測された銀河の回転速度が、見えている星などの質量から予想される回転速度が違っていることから、銀河には「見えていないけれども質量のある物質(暗黒物質)」が存在すると考えられた。この正体として現在まで、惑星や中性子星、ブラックホール、ニュートリノなど、さまざまな候補物質が挙げられてきたが、うまく説明できないことがわかった。最近、存在の確認された物質に質量を与える素粒子であるヒッグス粒子も有力な候補だったが、暗黒物質の総質量にはとても足りないことが明らかになった。現時点での有力候補は、近年大きく発展を続けている素粒子分野の新しい理論で考えられる「ニュートラリーノ」や「グラビティーノ」などの素粒子だが、それらの存在自体がまだ確認されていない。しかしこの分野の研究の進展は目覚ましく、近いうちにこれらの名前をニュースで暗黒物質の正体として耳にする日が来るかもしれない。

学生からのコメント

納富 廉

科学は日夜進歩している。記事にならないことも、私たちの目に触れないことも、誰かが研究を続けている。宇宙背景マイクロ波が観測されたところで私たちの世界が変わるわけではないが、自分は何がしたいのか、何ができるのか、世界を広げるきっかけになった。(納富 廉)

酒本 竜矢

COBEの偉大な発見に夢を与えられた、当時の若い研究者が、やがてPlanck衛星のプロジェクトで新たな発見を手にしていくという物語を感じた。研究が次の世代に夢や希望をもたらし、人材育成の「いい流れ」ができるということは素晴らしいと思う。(酒本 竜矢)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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