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Nature Video活用事例

石器を「つくった」サルの話

Monkeys can make stone tools too

Stone flakes made by capuchin monkeys look remarkably similar to stone tools made by early humans 2-3 million years ago, raising questions about the archaeological record. Read more in this news story. Read the original research paper.

その他の Nature Video

道具を使うのは人類だけではない

道具を使う生き物といえば、私たち人類以外には類人猿と呼ばれるサルの仲間が知られている。テナガザルの仲間や、オランウータン、ゴリラ、チンパンジーとボノボを類人猿と呼んでおり、高度な知能をもち、社会的な生活を営んでいる。私たち人類と類人猿とは500万年前にアフリカで生物学的に枝分かれしたと考えられているが、ごく最近、700万年前にヨーロッパで分岐したのではないかという研究も発表されており、現在も議論のある問題でもある。

じつは、類人猿以外にも道具を使うサルがいる。オマキザル(尾が巻いていることからこの名がつけられた)と呼ばれるサルの仲間が中南米に生息し、おもに果実や昆虫などを食べている。今回のNature Videoには、オマキザルの一種であるヒゲオマキザルが、器用に石を使って木の実を割ったり、土を掘って餌を探したりしている様子が収められている。さらに石どうしを叩きつけて粉のようになった細かい破片を舐める行動も確認されているが、なぜこのようなことをするのかはわかっておらず、地衣類を食べているか、あるいはミネラルを補給しているのではないかと考えられている。考古学者Tomos Proffittらの研究チームは、動画に記録されているようなヒゲオマキザルが「つくった」道具について、人類史に疑問を投げかける大発見をした。

オマキザルも石器をつくる?

Proffittらがもっとも興味をそそられたのは、ヒゲオマキザルが打ち割った石の破片である。この破片は、初期の人類が作った石器と同じに見えるのだ。これらはおよそ300万年前頃に人類が作ったとされる「剝片石器」と呼ばれているものによく似ている。剝片石器とは原石を打ち欠いたときにできる薄いかけらを加工してできる石器をいい、縁が鋭く、当時は刃物として使われたらしい。ヒゲオマキザルが剝片石器に似たものをつくっていたという発見は、これまでの考古学に大きな問題を投げかける。なぜなら、もしかすると私たち人類がつくったと考えられてきた石器のなかに、じつはサルがつくったものが含まれている可能性があるためだ。2015年にケニア北西部で発見された、ヒト族の祖先がつくったとされる約330万年前の石器も再検討する必要があるかもしれない。

かつて科学者は、人類のみがこれらの薄い石器をつくることができると考えていたが、今回の発見により、サルがこのような道具をつくることが明らかになった。こうなると続いて生じる疑問は、「ヒゲオマキザルは意図してこのような道具をつくったのか?」ということだ。

ヒゲオマキザルは、石を打ち割ってできた剝片を別の石に打ち付けて破片にし、口に運ぶことは紹介したとおりだが、剝片の鋭い縁を利用してものを切ったり、あるいは土を掘ったりということはしていないらしい。果物を割るときに使う石は、加工された石器ではない、ふつうの石だ。ただし、木の実を割るために、台座となる石や木と、ハンマーとなる石を使っていることが報告されている(Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130922)。石を器用に使っているサルではあるけれども、石器によく似た剥片はヒゲオマキザルにとって現時点では偶然の産物のようだ。

この研究で明らかになったことは、偶然とはいえ人類以外の生き物が初期の石器に非常に似たものをつくることができることだ。そしてサルの生態にはまだまだわかっていないことも多く、私たちの知らないところで器用に道具を使っている種族がいるのかもしれない。

学生との議論

Credit: Lisa-Blue/E+/Getty

衝撃だった「道具を使う」チンパンジーの発見

「どうやって道具を使うことを覚えるのか」は、学生たちにとっての関心ごとらしい。1960年代の頃までは「人間だけが道具を使い、そして作る」と科学者は考えていた。

チンパンジーが道具を使うところを発見したのは、チンパンジーの研究者ジェーン・グドール(Jane Goodall)である。彼女の書物によると、チンパンジーが草の茎を拾い上げ、アリ塚に突き刺して少し待った後、シロアリのたくさん付いた茎を引き抜いて唇でぬぐい取ったところを見かけたという。さらに数日後には別のチンパンジーが草の葉を剥ぎ取って茎をアリ塚に突き刺すところも目撃した。チンパンジーも道具を使うだけでなく、作るのだ。この事実は当時の研究者たちにとっては驚き以外のなにものでもなく、「人間とは何かを定義し直し、道具とは何かを定義し直さなければならない。あるいは、チンパンジーを人間と認めるかだ」と著名な古人類学者ルイス・ルーキーは述べたという。

ものを割るために座って石を振り下ろすチンパンジーと、立って石を振り下ろすオマキザルには、道具を使うためのからだの構造の違いを見ることができる。いろいろな動物を観察することによって、人類への進化の道が明らかになっていくのだ。

学生からのコメント

石を道具として使うサルの話題だが、これらのサルはコミュニケーションをとることができるのか、に関心をおぼえた。生物学的に人間に近いサルたちのコミュニケーションを理解できれば、やがてはサルとの共同社会が到来するのだろうかと、夢のようなことまで考えた。(三堀 敦矢)

チンパンジーが道具を使うことは知っていたため、オマキザルが道具を使う点に驚きはなかった。しかし、サルが偶然に作り出したものであっても、人類の石器とよく似ていることは興味深い発見だと感じる。サルの技術だけでなく、感情はどうなのかということも含めて学んでみたい。(齋藤 唯央)

Nature ダイジェスト で詳しく読む

サルの「石器」が投げかける疑問
  • Nature ダイジェスト Vol. 13 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2016.161204

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Nature ダイジェストISSN 2424-0702 (online) ISSN 2189-7778 (print)