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考古学と霊長類学の出会い

Nature ダイジェスト Vol. 10 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2013.130922

原文:Nature (2013-06-20) | doi: 10.1038/498303a | Archaeology meets primate technology

Andrew Whiten

ヒトによる石器利用技術の歴史を、現生霊長類の行動学が教えてくれることがわかった。 石のハンマーで木の実を割る野生オマキザルの研究から、その技術的活動に関する時間的・空間的なパターンが明らかになり、考古学的視点から研究可能であることが確認されたのだ。

我々の祖先は250万年以上にわたって石器を作り、それを利用してきた1。青銅製の刃物が石の斧に取って代わったのはたかだか数千年前のことであり、人類の技術的進化の99.9%以上は、打撃用石器(狙いを定めた力によって機能するハンマーや斧)とともにあったといえる2。したがって、現生の霊長類が石器を使用するという発見は、この重要な行動を生きた状態で調べる絶好の機会となったのである。

図1:霊長類の打撃用石器使用
a.体重わずか4kg強の雄のオマキザルが、3.5kgの石を使って極めて硬いピアサバの実を割っている。ただし、石のハンマーは通常は約1kg。
b.カニクイザルは石を持ち上げて潮間帯の巻き貝を割る。
c.チンパンジーは、石のハンマーと台を使って木の実を割る。
d.インドネシア・イリアンジャヤ州の人々は、日常的に石の道具を使っている。

Credit: A, ELISABETTA VISALBERGHI; B, MICHAEL D. GUMERT; C, PRIMATE RESEARCH INST. OF KYOTO UNIV.; D, DIETRICH STOUT

それ以降、30年にわたってこの研究の中心となってきたのは、西アフリカのチンパンジーであった。しかし10年前、新世界ザルであるオマキザルの一種Sapajus libidinosusも、石のハンマーを使って木の実を割る(図1a)ことが明らかになった3。この発見から学際的プロジェクトが立ち上がり、今回、Elisabetta Visalberghiらのチーム4が、その成果をJournal of Archaeological Scienceに発表した5。その研究は単なる行動観察の域を超えて、オマキザルによる打撃用石器の使用に関して、さまざまな考古学的内容を含むものとなっている。

この研究は、霊長類考古学という新しい学問領域の、いわば最初の包括的実例といってよい6-8。研究チームは、サバンナのように開けたブラジルの林地生息環境で、野外調査活動を展開した。実際に木の実が割られている台を58か所特定した。それらは、石のハンマーが置かれていること、石や木の台にくぼみが作られていること、木の実の遺物などが残されていることなどによって、確認された。研究チームは、3年間にわたって毎月、それぞれの台のようすを入念に調べて写真を撮った。木の実を片付け、ハンマーを置き直して写真を撮り、次なる道具の配置変化を追跡したのだ。

その結果、台1つ当たりの月次使用率の中央値は35%であり、1つの台の使用頻度の最高値は36か月中30か月とわかった。ハンマーが持ち運ばれることは比較的少なく、ハンマーが3m以上動かされたのは、1872回の訪問のうちのわずか40回だった。ただ、そのうち7回は、それまで台として使われていなかった巨石まで、ハンマーが最長10mも動かされていた。さらに、極めて少ないケースではあるが、新しい石のハンマーが調査対象の台のところに現れている例が4回あった。また、ハンマーがその場所からなくなった例が17回あり、そのうち2回は、1か月または5か月後に元の場所に戻されていた。

今回の観察結果を以前のもの9と総合すると、少ないながらも、大規模な持ち運びも台の間で行われているらしいことがわかった。研究チームは今、長期的な記録計画を立てており、そこから何が明らかになるか楽しみだ。この研究には、木の実の殻の風化記録など、他の要素も含まれており、そのような観察は、オマキザルの道具に関連した大規模な行動パターンを間接的に描き出すとともに、非ヒト霊長類の技術的活動が、空間と時間の両面にわたって景観に与えている物質的影響も、明らかにしつつある。

チンパンジーに関する研究も並行的に行われている10。このような研究活動を通して、このチームは「考古学」を推進しているのだと主張している。辞書による考古学の定義では、「人類の過去」や「古代文化」の研究のことを指している。実際、考古学者といえば、深い穴を掘って重要な遺物を発見する人々とみられることが多い。チンパンジーの木の実割りについては、4300年前までさかのぼった歴史的証拠が発掘されている11。したがって、Visalberghiらが調べた遺物は、考古学的資料とは程遠いわけだ。しかし、定義上のあら探しは無意味だろう。人類に焦点を当てた学問の見方を他の種に応用することで、実際に、さまざまな進化に関する問題への洞察が得られているのだ。文化自体がその1つである2

オマキザルの技術は、観察による学習を通じて、文化的に伝達されているのだろうか。このテーマは、ぜひとも明らかにしたい最重要課題だ。新たな採餌技術を教え込むと、それが社会的学習を通じて広がり、伝統になることが、オマキザルのいくつかの捕獲集団を使った対照実験で明らかになっている12。そうした実験を野生動物で再現するのは困難だが、Visalberghiらの知見は、文化の伝達に関してさまざまな状況証拠をもたらしている。研究チームは、台のところに配列された重要な道具の相関的な位置関係が、この文化伝達仮説を支持していると考えている13。このような知見は、別の実験でも補完されている。オマキザルは、重さや大きさのような道具の最適な特性に関して、複雑な理解力を備えており、それをみごとに実証した野外実験14があるのだ。

ヒトとオマキザルは、約3500万年前に共通祖先から分岐した。そのような遠縁のサルの研究が、人類の石器技術に関する進化史に、何らかの影響を与えうるのだろうか2,15。私は影響すると確信している。

カニクイザルも、カキや巻き貝など硬い殻を持つ食物を、磯で石のハンマーを使って割っている(図1b)16。さまざまな対象にカニクイザルが異なる道具を使った結果として、被食者の方もさまざまな殻の装着パターンを獲得している。カニクイザルなどのマカクザルが属する旧世界ザルは、現在のアフリカとアジアに見られる霊長類の種であり、中米~南米の新世界ザルに属するオマキザルとは異なる。しかし、ここで述べた研究を総合すると、中に閉じ込められた食物を取り出すために石のハンマーを使用することは、大型類人猿に限らず広くサルの仲間が持つ潜在的な能力であって、わずかな条件がそろうと表出する能力だと考えられるのだ。

多様な霊長類種によるこうした行動の収斂は、打撃用石器技術の出現を裏で支えた生態学その他の要因がいったい何であったのか、ヒントを教えてくれる。例えば、一般的な仮説とは反するが、打撃用石器の使用は季節的な食物不足を克服する役割を果たした、というおもしろい知見がオマキザルの研究から出てきた17

ヒトと最も新しい共通祖先を持つのがチンパンジーだが、そこで見られる打撃用石器の使用形式は、さらに重要な意味を持つと考えられる。一般に、オマキザルは石を使って木の実を割るとき、後ろ足で立たなければならない(図1a)。しかし、チンパンジーは普通、座って体を立て、一方の手でハンマーを使いながらもう一方の手で対象物を操作する(図1c)。石を使う現生人類(図1d)の姿を見れば、このような形式が、すでに共通祖先において前適応として現れていたと考えられるのだ18

(翻訳:小林盛方)

Andrew Whitenは、セントアンドリューズ大学心理学神経科学系大学院社会学習・認知進化センター(英国)に所属。

参考文献

  1. McPherron, S. P. et al. Nature 466, 857–860 (2010).
  2. Whiten, A., Hinde, R. A., Laland, K. N. & Stringer, C. B. Phil. Trans. R. Soc. B 366, 938–948 (2011).
  3. Fragaszy, D., Izar, P., Visalberghi, E., Ottoni, E. B. & de Oliviera, M. G. Am. J. Primatol. 64, 359–366 (2004).
  4. Visalberghi, E., Haslam, M., Spagnoletti, N. & Fragaszy, D. J. Archaeol. Sci. 40, 3222–3232 (2013).
  5. www.ethocebus.net
  6. McGrew, W. C. & Foley, R. A. J. Hum. Evol. 57, 335–336 (2009).
  7. Haslam, M. et al. Nature 460, 339–344 (2009).
  8. Wynn, T., Hernandez-Aguilar, R. A., Marchant, L. F. & McGrew, W. C. Evol. Anthropol. 20, 181–197 (2011).
  9. Visalberghi, E. et al. Primates 50, 95–104 (2009).
  10. Carvalho, S., Biro, D., McGrew, W. C. & Matsuzawa, T. Anim. Cogn. 12 (Suppl.), 103–114 (2009).
  11. Mercader, J. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 104, 3043–3048 (2007).
  12. Dindo, M., Thierry, B. & Whiten, A. Proc. R. Soc. Lond. B 275, 187–193 (2008).
  13. Fragaszy, D. et al. Phil. Trans R. Soc. B (in the press).
  14. Visalberghi, E. et al. Curr. Biol. 19, 213–217 (2009).
  15. Goren-Inbar, N., Sharon, G., Melamed, Y. & Kislev, M. Proc. Natl Acad. Sci. USA 99, 2455–2460 (2002).
  16. Gumert, M. D., Kluck, M. & Malaivijitnond, S. Am. J. Primatol. 71, 594–608 (2009).
  17. Spagnoletti, N. et al. Anim. Behav. 83, 1285–1294 (2012).
  18. Whiten, A., Schick, K. & Toth, N. J. Hum. Evol. 57, 420–435 (2009).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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