2025年10月号Volume 22 Number 10
ストレス対策に最新科学で挑む
ストレスは心疾患やがん、脳卒中、自殺など主要死因に深く関与し、歴史的にも景気後退期やパンデミック下で増加することが分かっている。現在、血中コルチゾールや心拍、遺伝子発現、腸内細菌プロファイルなど多角的な指標を、ウエアラブルデバイスや自宅検査キットで取得可能となり、「良いストレスと悪いストレスの境界」を判定できる時代になってきている。
Editorial
Research Highlights
リサーチハイライト
「マウスを長生きさせ、肥満を防ぐホルモン」「ポジティブな気分のときに見たものは記憶に残りやすい」「家畜の排泄物中にあふれる薬剤耐性遺伝子」「最高エネルギー宇宙線に欠けている成分」、他。
News in Focus
終身在職権の獲得が論文の出版数と被引用数に与える影響
研究者が論文を出版するペースは分野によってばらつきがあり、終身在職権を獲得した後の出版傾向も異なっていることが明らかになった。
PhD過剰問題への対策の現状
現在の博士課程プログラムは、学外のキャリアに進む学生への支援が不十分だと、研究者らは警告している。
改変キラー細胞を使った自己免疫疾患の治療
この実験的な治療法は、一部の疾患に対してCAR T細胞療法に比べて安全で費用のかからない治療法となる可能性がある。
隠しプロンプトでAI査読を出し抜こうとする科学者たち
機械にしか読めない指示が隠された数本のプレプリント論文が取り下げられる見込みだ。
AIは仮想細胞を構築できるか?生命の最小単位をモデル化する競争
細胞の挙動を予測できる人工知能モデルの開発競争が過熱している。
大腸菌がプラスチック廃棄物を鎮痛薬に変換
アセトアミノフェンを持続可能な方法で合成する道を開く研究成果が報告された。
試料密輸容疑で科学者の逮捕が相次ぎ米国入国への不安が広がる
米国の入国手続きで科学者が逮捕された事例と、米国内に実験材料を持ち込む際の注意点について、Natureは専門家らに話を聞いた。
助成金申請の相互審査で査読を迅速化
不正を防止するための仕組みも備えた「分散型査読」の試みにより、助成金申請の審査が2倍以上速くなった。
15年の論争の末に撤回された「ヒ素生命」論文
Scienceはこのほど、15年前に世界的に注目された研究論文を撤回したが、著者らは自分たちのデータに問題はないと激しく反論し、撤回は不当だと主張している。
中国製抗肥満薬が肥満関連疾患治療の新たな潮流に
心臓病や2型糖尿病などの肥満に伴う合併症を標的とする次世代抗肥満薬が、中国で盛んに製造されている。
研究公正探偵の努力が反科学派に都合よく利用されている
一部の専門家は、問題のある研究を一掃しようとする研究公正探偵の活動の成果が、科学そのものを攻撃する反科学派の武器として都合よく利用されている現状に不安を感じている。
Features
誰もが抱えているストレス:科学にできること
ストレス評価の改善と個別化された介入により、医師はダメージの持続を防ぐために必要なツールを手にすることができるかもしれない。
化学的な「スーパースポンジ」がついに市場へ
発明から30余年、画期的な超多孔性材料「金属有機構造体(MOF)」が今、二酸化炭素の回収や空気からの水の捕集用に商用材料としての道を歩み始めている。
World View
行動変容によって災害の犠牲を減らすことができる
1人1人が防災に対する意識を高めることで、地震や洪水のリスクを低減できる。
Japanese Author
Free access
iPS細胞由来神経細胞によるパーキンソン病治療で成果!
加齢黄斑変性を皮切りに、相次いで人工多能性幹(iPS)細胞由来の細胞を移植する治験が進む中、京都大学iPS細胞研究所臨床応用研究部門神経再生研究分野の髙橋淳教授らは、世界初となるiPS細胞由来神経細胞を用いたパーキンソン病の治験で、安全性を確認するとともに、治療効果も期待できる素晴らしい成果を得た。
News & Views
組織治癒におけるミトコンドリアの意外な役割
トリカルボン酸(TCA)回路は、エネルギーを産生するミトコンドリアで起こる一連の反応経路であるが、今回、その重要な構成要素であるα-ケトグルタル酸が、腸幹細胞の運命を指示できることが分かった。
光子を使ったトンネル効果でボーム解釈に疑問を呈する結果
無限に長い障壁の中に「量子トンネリング」する粒子は静止している、という予言に反する結果が、閉じ込められた光子を使った測定で得られた。
小学1年生で、男子は女子を数学で上回る
数学の能力の男女差は、子どもたちが小学校に入学後、間もなく生じることが明らかになった。これは通学する学校の種類や社会経済的背景には関係していない。
Advances
カギムシの粘液のひみつ
再利用可能なバイオプラスチックのヒントがカギムシの粘液に眠っている。
音スポット
2本の超音波ビームがカーブを描いて局所的に音を届ける。
Where I Work
Emmanuel Barde Elisha
Emmanuel Barde Elishaはガシャカ・グムティ国立公園で活動するアフリカ・ネイチャー・インベスターズ財団(ナイジェリア・ラゴス)の研究コーディネーター。
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