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科学者自身の手で種をまこう

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190916

編集部

研究者の専門知識は研究室以外の場所でも必要とされていると、渡辺正夫・東北大学大学院教授は話す。植物遺伝育種学の第一線で活躍する渡辺氏は、2005年から小学校や高校を中心に出前授業を行い、2018年12月には1000回を数えた。渡辺氏に、研究者によるアウトリーチ活動の意義について聞いた。

小学生に囲まれながら植物について語る渡辺教授。 | 拡大する

出前授業のきっかけは?

東北大学に移った2005年に、大学からの依頼を受けて実施。高校時代に将来は教師になることを考えた時期もあったので、出前授業の実施依頼書を見た私は、「チャンスが早々に巡ってくるとは!」と申し込みました。

東北大学の出前授業は仙台市教育局との提携によるもので、「人来田小学校にて実施を」という連絡がきました。でも小学生に教えた経験がない。ましてや私が研究する自家不和合性は理解が難しいのではと不安になりました。

頭を抱え、小学生時代の恩師に相談したところ、関心や集中力を途切れさせないように15分に1回は面白いことをやる必要がある。何をやるかは自分で考えなさいと。そこで仕掛けを3つ用意しました。①動画、②実物を使った学習、③野菜や果物を被ったぬいぐるみ「博士」たちです。実物を見せたのは、身近な自然について考えてほしいと思ったから。私は菜の花で研究をしていますが、子どもたちにはリンゴの果実を見せました。リンゴも自家不和合性です。「ふじの実を作るには王林の花粉をかけないといけない。どうして自分の花粉は嫌いなのかな?」「受精すると種子ができる。じゃあ、食べている実は何?」と尋ね、遺伝的多様性や種子と果実の関係に触れました。そうした話の後で自家不和合性の動画を見せると感嘆の声が。

ご自身へはどのような影響が?

初めての講義の後、子どもたちから手紙をもらいました。約40人だったので、全てに返事を書いたところ、人来田小学校の先生から「子どもたちが大変喜んで、家で飾っている子もいるほど」という電話が。社会に貢献できたのかもしれないと嬉しくなったのを今でも覚えています。

それに、相手に合わせたコミュニケーション方法も身に付きました。学際的な研究の場では、別の領域の人に自分の研究を説明する必要があります。分かりやすい言葉を持っていると心に余裕が生まれますし、研究発表や申請書作成でも役立ちます。あと、さまざまな人とのつながりができました。視野が広がり、違った世界が見られます。最近では、キャリア形成について話す機会も増えてきました。

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なぜ植物遺伝育種の研究を?

小学生のころから、テレビアニメに登場する「科学」「博士」に憧れていました。植物の遺伝育種学を学びたいと思ったきっかけは、高校の社会科の授業で「ハイブリッドライス」のテレビ番組を観たこと。遺伝学で品種改良をして世界征服ができるんじゃないか!? と。植物は食糧ですから、世界中の全ての人に必要です。イネとキャベツの仲間が消えたら、とんかつ定食はレモン定食になりますよ。

研究を続けていくには、やりたいこととやりたくないことの折り合いをつけないといけないし、激しい競争もある。夢を持って、「毎日頑張ること、努力すること、続けること」で、自分に合ったやりたいことが見つかる。私は植物や畑が好きなので、植物の「彼氏と彼女の問題」を解決していけたら楽しいだろうと。あとは、植物に興味を持って、渡辺の後を継承してくれる人が現れると幸せなのですが。

研究者が専門知識を生かし、科学の楽しさや科学の歴史を子どもたちに伝えるのは大事なこと。私が研究の合間を縫ってアウトリーチ活動を続けているのは、自然の変化や不思議について子どもたちが考えるきっかけになればとの思いから。研究を社会へ還元することでもあり、米国のNSFグラントでは評価対象。自分自身の研究の励みにもなり、将来研究を発展させてくれる「種」をまくことにもなる。大学にとっては学生を呼び込むことにつながる。外の世界と関わるのは案外楽しいものなのです。

渡辺 正夫(わたなべ・まさお)

東北大学大学院植物分子育種分野教授

愛媛県今治市で生まれ育つ。2005年より東北大学大学院にて現職。大学での研究と指導の傍ら、多数のスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の運営指導委員も歴任。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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