News Scan

大昔の殺人犯を捕まえる

現代の刑事は殺人犯を捕まえるためにDNA解析を利用できる。だが、犯行現場が何千年も風雨にさらされていたらどうだろうか。DNAはそこまで長く無傷のままではいられない。このため、大昔に死んで化石化した動物を殺した捕食動物を突き止めようとする古生物学者の場合、事件は迷宮入りになることが多い。

だが、そうした大昔の殺人犯を特定するのに役立ちそうな新しい方法が現れた。捕食動物が獲物の骨をのみ込むと(例えばフクロウが夜に小さなネズミを捕まえて食べたとき)、捕食者の胃液が獲物の骨の表面に微小な傷を残すことを利用する方法だ。

こうした腐食跡のパターンは捕食動物の種類に固有のものとなるため、犯罪捜査の解決に使える指紋に似ていると、腐食跡を調べたチームを率いたオレゴン州立大学(米国)の古生物学者Rebecca Terryは説明する。大昔に消えた生態系でどんな種類の捕食動物が活動していたかを描き出すのにこの技法は役立つという。化石が乏しい地域の場合は特に効果が大きく、「実に強力な方法なのです」。

Terryらは現代の捕食性の鳥が食後にペレットとして吐き戻した骨を走査型電子顕微鏡で調べた。また肉食哺乳類の糞も調べた。「夜行性のフクロウの胃に入って吐き戻された骨は、昼行性の猛禽類や哺乳類に食べられた骨とは明確に区別できました」と彼女は言う。フクロウの胃の中で骨に刻まれた腐食跡のパターンは比較的短くて密集しているのに対し、タカや哺乳動物に食べられた骨の腐食跡は長くてまばらな傾向があった。そして、現代のフクロウや哺乳動物が骨に残す腐食跡は「大昔に同様の捕食者が食べた骨の化石に見られるパターンと区別がつきませんでした」。この成果は、2018年11月のPALAIOS に報告された。

これらの発見は、殺されて食べられたとみられる動物の化石について古生物学者が抱いている最も基本的な疑問を解くのに役立つだろう。「殺ったのは誰だ?」という疑問だ。シンシナティー大学(米国)の古生物学者Joshua Miller(この研究には加わっていない)が言うように、「個別の骨を実際に調べ、その骨がその発見現場にあった理由について、ある程度の見通しを付けることができます。これは実に素晴らしいことです」。

翻訳:粟木瑞穂

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2019.190507a