Editorial

日出ずる国の黄昏

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2017.171139

原文:Nature (2017-08-17) | doi: 10.1038/nature.2017.22444 | Budget cuts fuel frustration among Japan’s academics

理研での騒動は、日本の科学研究の低迷が最重要研究機関にも広がったことを反映しており、政策的取り組みが求められる。

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The Asahi Shimbun/The Asahi Shimbun/Getty

日本で唯一の自然科学の総合研究機関、理化学研究所(理研)は、2017年に創立100周年を迎え、4月26日の記念式典には天皇、皇后両陛下のご臨席を得た。しかし、かつて「研究者の楽園」と呼ばれた理研は、今やその影もなく、財政の不確実性に直面した日本政府が科学予算の削減を進めるにつれて、ほころびが目立ち始めた。

その影響を受けた研究者の1人が、同研究所脳科学総合研究センター(BSI;埼玉県和光市)の西道隆臣(さいどう ・たかおみ;神経蛋白制御研究チーム、シニア・チームリーダー)だ。上述の記念式典が行われた頃、西道は、その研究に対する年間予算の43%カットを通告された。これに対して西道は、「事前通告はあったが、スタッフに対する報酬と実験用マウスの維持管理に要する費用を別の方法で調達する準備が必要と感じる厳しい内容ではなかった」と主張する怒りの声明を、インターネット経由で世界約250カ所の研究室に向けて送信したと話す。

これは、科学政策上の優先順位に端を発する問題であり、現在の優先事項は、7月に文部科学省が公表した科学技術白書(平成29年版)の目次に見事に現れている。この白書は、イノベーション(技術革新)に関する議論と、イノベーション達成のために産学交流を活発化させる方法に関する記述が大半を占めている。その方法の1つが基礎研究の予算削減であり、そのしわ寄せが、大学と研究機関に及んでいるのだ。

理研の予算は、過去10年間に20%以上削減され、その間にBSIは、主任研究員を61人から41人に減らして対応した。

大学も同様の苦境に立たされていて、2004年に国立大学を法人化する改革が実施されて以降、運営費交付金は毎年度1%減額され続けている。法人化の目的は、大学が産業界のニーズや軍事的ニーズに合わせた研究を実施することで機動的・戦略的な運営を実現し、競争力を強化することだった。ところが、この改革で想定外の負の影響が生じた。教授の新規採用が停止され、研究スタッフは、契約職員として新規採用され、研究助成金を渡り歩いて研究生活を維持しているのだ。

その結果「不安定な雇用条件やそれに伴う経済的不安の下に置かれた若手研究者は、短い任期中に業績を積むことを強いられるなど、真の独創性や創造性を十分に発揮しづらい状況を生み出している」ことを、科学技術白書は認めている。

影響が及んでいるのは若手研究者だけではない。大学の研究者の事務負担と助成金申請書作成の負担が増え、総労働時間に占める研究時間の割合が減り、2002年には半分弱だったのが今では3分の1強だと証言する大学研究者がいる。

日本への経済的、政治的逆風は強まっている。こうした不安定な時期こそ、日本の政策決定機関と行政当局は科学研究に対する支援を増強すべきだ。大学は、予算削減予定をなるべく早期に表明する必要がある。理研は、研究予算が先細り傾向にあることについて研究者の注意を喚起してきたと言うが、西道は大幅削減を示唆する話はなかったと言う。

研究機関も自らの透明性を高める必要がある。西道の苛立ちに共感する理研の研究者たちは、自身の地位に不安を感じているためこの問題を公然と論じることを恐れていた。理研の各研究施設で組織改革が予定されていることも大きな懸念材料だ。

日本は、重要な科学的知見を生み出し出版する力が衰えたことを残念がっているが、これは決して予想外の結果ではない。日本の論文出版実績は2000年以降横ばいで、科学技術への投資額の推移と見事に重なるのだ。日本の研究者は、研究論文数から算定された国際競争力の低下(世界第4位〈2004年〉から第10位〈2014年〉に)を突き付けられ、研究予算も論文出版率も増えている中国などを羨望の眼差しで見ている。日本は過去の科学研究実績を誇ってしかるべきだが、日本の科学の未来を守るには一層の施策強化が必須だ。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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