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新種の化学結合

Nature ダイジェスト Vol. 12 No. 3 | doi : 10.1038/ndigest.2015.150306b

1980年代に予言された「振動結合」の存在を確認

化学には多くの法則があり、「反応速度は温度上昇とともに高まる」というのもその1つだ。だから、1989年にカナダのバンクーバーにある加速器で実験していた化学者たちは奇妙な現象を観察して当惑した。臭素とミューオニウム(水素の原子核である陽子がミュー粒子に置き換わったもの)を反応させる実験で温度を上げると、反応が遅くなったのだ。

実験に加わったブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ・バンクーバー)の化学者Donald Flemingは、臭素とミューオニウムが混合した際に、「振動結合」で結び付いた中間体ができたのだろうと考えた。振動結合は1980年代に別の化学者たちが理論的な可能性として提唱していたものだ。

この仮説では、軽いミューオニウム原子が2個の重い臭素原子の間を素早く移動すると考えられる。「2個のボウリング球の間でピンポン球が跳ね返っているような状況だ」とFlemingは言う。この振動する原子が、短い時間ではあるが2個の臭素原子を結び付けて全体のエネルギーを下げるため、反応速度が遅くなると考えらえる。

再実験

当時は、たった数ミリ秒の反応を十分に詳しく調べられる装置がなく、そうした振動結合が存在するかどうかを判断できなかった。だがその後の25年間で、化学反応中のエネルギーレベルのわずかな変化を追跡する技術が飛躍的に進んだため、Flemingらは3年前、ラザフォード・アップルトン研究所(英国ディドコット)の加速器で再びこの反応を実行した。

これら2つの実験結果に関する計算結果と、ベルリン自由大学(ドイツ)と埼玉大学の理論化学者との共同研究に基づき、Flemingらはミューオニウムと臭素が確かに新種の一時的な結合を形成していたと結論付けた。振動結合の性質から、臭素とミューオニウムが振動結合で結び付いた中間体の総エネルギーは確かに下がる結果になった。これによって、両者が通常の化学結合で結び付く反応の速度が、温度上昇にもかかわらず低下したことの説明が付く。

2014年12月にドイツ化学会の学会誌Angewandte Chemie International Editionに報告されたこの研究は、振動結合がつかの間の存在とはいえ、既知の化学結合の一覧に追加すべきであることを確認している。また、Flemingは、他の重い原子と軽い原子が反応する際にも振動結合が生じると予測している。

(翻訳:鐘田和彦)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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