Author interview

大動脈解離

鈴木 亨氏

掲載

大動脈解離は生命を脅かす病態であり、大動脈中膜の裂口または大動脈壁内の出血によって大動脈壁の層が剝離(解離)して起こる。大動脈解離は65~75歳の高齢者に最も好発し、この集団の10万人あたりの年間発症頻度は35人になる。… 続き

―― 今回のPrimer「Aortic dissection(大動脈解離)」について、インパクトはどこにあるとお考えでしょうか?

今回の総説は、17ページにわたって大動脈解離についての知見をアップツーデートし、基礎から臨床、トランスレーショナルな内容に至るまで包括的にカバーしています。これらの点が最大のインパクトと考えています。たとえば、臨床における最新の知見として、新しい診断法(バイオマーカーやイメージング)や治療法(ステントグラフト)、病態機序の最新知見(遺伝子やパスウェー、炎症機序)などを紹介しました。一方で、通常の原著論文では書くのが難しい「今後の展望等に関する考え方や見方(推測等)」ついても言及しており、この点にもインパクトがあると思います。

―― 診断、治療、予防等にどのように生かせるとお考えでしょうか?

臨床現場においては、新しい診断法や治療法をいかに実用化させるか、さらには、どのように検証を重ねて定着させるかが重要です。今回、最新の知見として紹介したもののなかには、この先の臨床において定着し、さらに展開が期待されるものもあると思います。最新の病態機序の知見も紹介しましたが、こちらも新しい治療法の開発にもつながると期待しています。

若手の臨床医には、本総説を通してこれまでの進歩と変遷を理解いただいたうえで、今後の展開について考えてほしいと願います。研究者には、臨床医の視点から書かれた総説を通して、新たな研究への道筋や仮説を考えてほしいと思います。10年前にくらべると、大動脈解離に対する理解(診断、治療、病態機序)は相当進みました。さらに昔の半世紀前とくらべたら、全く違う状況といえます。本総説をきっかけにアップツーデートな知識を得て、過去、現在、未来について一緒に考えていただけたら嬉しく思います。

―― 残された謎、解明すべき病態等はございますか?

今のところ、大動脈解離を予知することはできません。ハイリスク症例の特定はできますが、解離する場合としない場合の違いはまだ良くわかっていません。したがって、研究を進めて「解離すると予想されるハイリスク群」を特定できるようにするのが課題の一つといえます。実現すれば予防法の開発にも結びつくと思います。

―― 大動脈解離領域や若手臨床医に対しての思いをお伺いできますか?

常にアカデミックなマインドを持ちつつ、どのように診断や治療に貢献できるかを考えることが重要と考えています。知識も重要ですが、知見を整理し、現状の理解の問題点や課題を理解することが肝心だと思います。そうすることで、次の課題も明らかになると思います。

大動脈解離は、社会の高齢化とともに症例が増えている疾患です。まだ十分に理解できていない面もあります。若手の臨床医の方々にも是非チャレンジしていただきたいと考えています。

聞き手は、西村尚子(サイエンスライター)。

Nature Reviews Disease Primers 掲載論文

大動脈解離

Aortic dissection

Nature Reviews Disease Primers 2 Article number: 16053 (2016) doi:10.1038/nrdp.2016.53

Author Profile

鈴木 亨

循環器内科医として大動脈疾患に興味をもち、病態解明ならびに診断・治療法の開発を行ってきた。たとえば、日本国内における研究(厚生労働班研究)から国際多施設研究(国際レジストリー)等において臨床研究を行った。同時に、診断バイオマーカーを複数開発し、国際ガイドライン(日米欧)でも引用され、バイオマーカーを用いた診断アルゴリズムの展開にも寄与した。病態メカニズムの解明にも務め、昨年炎症機転に関する論文を発表。2014年には、英国において循環器疾患(とくに大動脈疾患)の拠点病院に指定されているレスター大学の教授に就任した。

1992年 東京大学医学部卒業
1992年 同 附属病院 内科研修医
1993年 日本心臓血圧振興会附属 榊原記念病院 循環器内科
2001年 東京大学医学部 循環器内科 医員
2002年 同 助教(クリニカルバイオインフォマティクス研究部門)
2007年 同 准教授(ユビキタス予防医学講座)
2014年 英国レスター大学 循環器内科 教授
鈴木 亨氏

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