Author interview

胃腺がん

佐野 武氏

掲載

胃がんは世界の大きな健康負担の1つになっており、中でも胃腺がん(GAC)は組織学的に最も多い型である。早期発見を目的としたスクリーニング戦略が日本と韓国で成功しているが、ほとんどの国では取り組んでいないか、実施が難しく、大多数の患者で診断の遅れにつながっている。… 続き

―― 今回のPrimer「Gastric adenocarcinoma(胃腺がん)」について、インパクトはどこにあるとお考えでしょうか?

まず、胃がんの疫学から基礎的研究、診断、治療の最新のエビデンスを網羅的にアップデートしている点があげられます。さらに、近年、日本でも増加傾向にあることで危惧されている接合部腺がんも網羅し、最新の知見について解説しています。簡潔な説明とわかりやすい図表が用いられており、これまでの胃がんの臨床・基礎の発展を把握するうえで非常に有用な内容だと思います。

―― どのような新たな知見や視点が紹介されたのでしょうか?

この十年の胃がん治療の大きな進歩は、トラスツズマブやラムシルマブなどの分子標的薬を用いた治療の躍進によります。たとえば、HER2遺伝子が過剰発現した症例に適応されるトラスツズマブの登場など、胃がんも個別化治療の時代を迎えました。また、基礎研究としては、がんゲノムアトラス(TCGA)により胃がんの分子分類がなされるようになりました。400例を超える胃がんサンプルの遺伝子変化が次世代シーケンサーで網羅的に解析され、胃がんが4つのサブタイプに分類されるようになったのです。同時に、さまざまな遺伝子異常について、その頻度も明らかにされました。本総説では、こうした最新の知見が紹介されています。

―― がんの基礎研究がさらに進めば臨床にどのようなメリットがもたらされるでしょうか?

現在、胃がんは進行度分類(TNM分類)によって診断され、治療が行われています。基礎研究の最新成果、たとえば新たに得られた分子生物学的マーカーは、個別化医療の発展に寄与すると思います。今はまだ胃がんの診断を画像の読影技術に依存する面がありますが、胃がんに特異的な分子マーカーを用いたがん細胞の視認技術等が発展すれば、より客観的に早期診断できるようになると考えます。

―― 本総説の臨床医や研究者にとってのメリットとは?

臨床医にとっては、日ごろ触れる機会の少ない基礎研究発展の全容を把握し、最近、導入された分子標的治療のメカニズムの理解を深めることができるでしょう。一方、研究者にとっては、自身の専門分野以外の領域の発展、基礎研究をどのように臨床へ応用させることができるか、といったことを考える重要な手がかりとなると思います。

―― 残された謎、解明すべき病態等はございますか?

TCGAにより胃がんを分子分類できるようになり、この疾患を分子生物学的により大きな視点で捉えることが可能になりましたが、臨床的な有用性はまだ明らかではありません。個々の分子タイプの臨床的特徴や従来の治療法の有用性になどについては、今後の解明が待たれます。がん細胞以外の微小環境を標的にする免疫チェックポイント阻害薬が登場したことで、これまでになかった新たな創薬が行われるようにもなりましたが、さらに、がん関連線維芽細胞や免疫細胞と胃がんの相互作用などの解明も待たれます。同じ意味で、胃がんの予後不良因子である腹膜播種の病態理解にも、腹膜播種を取り囲む腹腔内の微小環境変化に着目する必要があるのではないかと考えます。

―― 若手臨床医へのアドバイスをお願いできますか?

見える胃がんを正確に診断して過不足なく切除するという点では、日本は世界をリードしてきましたが、現在は、分子生物学的な知見を織り込みながら「がんとしての全体像」をとらえる治療が求められる時代を迎えています。こうした変化に乗り遅れないよう、常に耳を澄ませているようにしてほしいと願います。

聞き手は、西村尚子(サイエンスライター)。

胃腺がん

Gastric adenocarcinoma

Nature Reviews Disease Primers 3 Article number: 17036 (2017) doi:10.1038/nrdp.2017.36

Author Profile

佐野 武

佐野 武氏

がん専門病院で多数例の胃癌の外科治療を行いながら、多施設共同の臨床試験を主導し、世界に発信できる臨床的エビデンス創出につとめている。日本の胃癌手術に関する理論と手技を広めるべく、世界各国で講演、手術実演も行ってきた。国際胃癌学会を通じて世界の胃癌治療成績を集積し、新しいTNMステージ分類を提唱し、TNM第8版に採用されている。日本胃癌学会では、英文学会誌Gastric Cancerの創刊、育成に尽力し、胃癌治療ガイドラインの作成委員長を務めている。

1980年 東京大学医学部医学科卒業
1986〜87年 フランス政府給費留学生としてパリ市キューリー研究所フェロー
1987年 東京大学第一外科文部教官助手
1993年 国立がんセンター中央病院外科医員、東京大学医学博士
同病院外科医長、第二領域外来部長を経て
2008年 がん研有明病院消化器外科上部消化管担当部長
2015年 同 副院長、消化器センター長、現在に至る
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