Author interview

先天性難聴ブックマーク

宇佐美 真一氏

掲載

先天性難聴(生まれつきの難聴)は、小児の慢性疾患の中で最も頻度が高い。そのため、多くの先進国が新生児の聴力スクリーニングプログラムを実施して早期発見に努めている。早期介入を行うことで、言語発達の遅延が未然に防がれ、社会的・情緒的発達やQOLへの有益性が長期に及ぶ。… 続き

―― 今回のPrimer「Congenital hearing loss(先天性難聴)」について、インパクトはどこにあるとお考えでしょうか?

「先天性難聴」は原因が不明でしたが、最近の遺伝子解析技術やウイルス同定の技術向上により解明が進んできています。今回の総説は、世界の第一線で活躍する臨床医や研究者が協同で現状を紹介したもので、同定された原因遺伝子や、難聴の分子メカニズムなどについて、美しいイラストとともに概説しています。また、原因検索のためのアルゴリズム、原因別の治療法についての解説もなされており、先天性難聴の診断から治療に至るまで、概要を理解することができる内容になっています。

―― どのような新たな知見や研究成果が紹介されているのでしょうか?

先天性難聴の約60〜70%に遺伝子が関与、残りの30〜40%は感染、外傷、薬物などの環境要因によるものとされています。本総説では、とくに近年の遺伝子解析の進歩により明らかになった「蝸牛内の内外リンパ液組成を維持するしくみと、それに関連する遺伝子」、「音の振動をキャッチする有毛細胞のメカニズムと、それに関わる遺伝子」について、それぞれの変異で引き起こされる難聴のメカニズムが紹介されています。

―― 診断、治療、予防等にどのように生かせるとお考えでしょうか?

新生児聴覚スクリーニングが普及し、先天性難聴が早期診断できるようになっています。そして、発見された難聴児に早期介入や治療を行うことにより、聴覚を利用した言語発達が可能になりました。さらに、遺伝学的検査やウイルス検査を行って難聴の原因を明らかにすることにより、難聴の程度、難聴の予後、随伴する症状(網膜色素変性症、糖尿病、腎疾患など)の予測もできるようになり、治療法選択における有用な情報が得られるようになっています。2014年に改定された日本耳鼻咽喉科学会の小児人工内耳の適応基準では、遺伝子診断が人工内耳の選択に有用であることが、世界に先駆けてガイドラインの中で示されました。

―― 臨床医にとってのメリットとは? ご自身の経験を交えてお話しください。

先天性難聴の原因遺伝子が解明されたことで、その知見を臨床に導入できている点が大きいと思います。とくに日本では、世界に先駆けて2012年より難聴の遺伝子診断が保険診療として実施されるようになり、さらに2015年からは次世代シーケンサーによる遺伝子解析が保険収載の遺伝学的検査にも応用されています。このような先進的な医療環境が整ったことで、多くの先天性難聴で正確な診断が可能になり、患者にフィードバックできるようになっています。

―― 残された謎、解明すべき病態等はございますか?

現在までに90以上の難聴の原因遺伝子が特定されましたが、それぞれの変異により「内耳にどのような病態が生じて難聴に至るのか」が完全解明されたわけではなく、これからの研究を待たなければならなりません。また、難聴の原因遺伝子のすべてが明らかになったわけではなく、未知の遺伝子が残されていると考えられています。今後の研究により、このあたりが明らかになることが期待されます。

―― 日々の 臨床やご研究において、どのような工夫をされていますか?

常に、患者にフィードバックできる研究を心がけています。希少疾患は単一の施設のみの研究では十分なデータ収集ができません。私が研究代表者を務める「日本医療研究開発機構の研究課題 感覚器障害領域を対象とした統合型臨床ゲノム情報データストレージの構築に関する研究」では、オールジャパンの研究体制で、検体の収集、クリニカルシーケンスを実施するとともに、詳細な臨床情報が付加されたゲノム情報を集積するデータベースを構築し、遺伝子変異の情報収集と臨床的意義付けを行っています。

すでに5000例以上の難聴患者を対象に次世代シーケンス解析を終えており、保険診療に還元していくことを予定しています。また、私が班長を務める「難治性聴覚障害に関する調査研究班」では、進行性の難聴や症候群性の難聴について全国的な疫学調査をするとともに診断基準の改定を進め、臨床へのフィードバックを目指しています。

―― 先天性難聴領域に対しての思いをお伺いできますか?

難聴のメカニズムが分子レベルで理解できるようになり、各々の病態に基づく治療戦略を立てることが可能になってきました。本領域は、人工聴覚器をはじめとする治療法の進歩が著しい領域でもあります。人工内耳により言語を獲得して活き活きしている子どもたちを見ると、この領域の研究や臨床をやってきて良かったと感じます。今後、メカニズムに基づく根本的な治療法の確立を目指せる非常に魅力ある領域でもあります。ぜひ、日本から新しい治療法を発信したいと思い、日々研究を行っています。

聞き手は、西村尚子(サイエンスライター)。

先天性難聴

Congenital hearing loss

Nature Reviews Disease Primers 3 Article number: 16094 (2017) doi:10.1038/nrdp.2016.94

Author Profile

宇佐美 真一

宇佐美 真一氏

ライフワークは難聴の診断と治療。大学院の研究テーマとして内耳の形態学研究を始めたのがきっかけで内耳の魅力に取りつかれる。その後、分子生物学的アプローチを用いた研究に発展。最近は、次世代シーケンサーによる難聴の遺伝子診断を中心に研究を展開している。また、臨床では人工内耳など人工聴覚器を中心に臨床研究を行っている。

1981年 弘前大学医学部 卒業
1985年 弘前大学大学院医学研究科博士課程修了
1986年 ベイラー医科大学留学
1989年 ヘルシンキ大学医学部留学
1992年 弘前大学医学部 講師
1993年 弘前大学医学部 助教授
1999年 信州大学医学部 教授、現在に至る
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