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神経変性疾患:ミクログリアと補体はハンチントン病における初期の皮質線条体のシナプス消失と認知機能障害を仲介する

Nature Medicine 29, 11 doi: 10.1038/s41591-023-02566-3

ハンチントン病(HD)は単一遺伝子性の極めて深刻な神経変性疾患であり、変異型ハンチンチンの普遍的な発現にもかかわらず、初期病変が大脳基底核に選択的に現れることが特徴である。この領域特異的な神経変性の基盤となる分子機構や、これらが初期の認知表現型の発生と関連する仕組みはほとんど分かっていない。今回我々は、HD患者の死後組織では、皮質と線条体間のシナプス結合の選択的な消失があり、これは自然免疫に関与する分子である補体タンパク質の活性化や、これらのシナプス成分への局在化の増加と関連していることを示す。また、これらの分泌性の自然免疫分子のレベルは不顕性期のHD患者の脳脊髄液中で上昇しており、確立された疾患負荷尺度と相関していることが明らかになった。HDの前臨床遺伝学的モデルでは、補体タンパク質が疾患発症の初期段階に皮質線条体シナプスの選択的な除去を仲介しており、補体による標識により、脳に常在するマクロファージ集団であるミクログリアがシナプスを排除する。この過程では、変異型ハンチンチンが皮質と線条体ニューロンの両方で発現している必要がある。治療効果のあるC1q機能阻害抗体の投与や、ミクログリア上の補体受容体の遺伝学的除去によって、この補体依存的な除去機構を阻害すると、これらのモデルでシナプス消失が抑制され、線条体への興奮性入力が増加し、視覚弁別学習障害や認知的柔軟性低下の早期発症が抑制された。まとめると我々の知見は、ミクログリアと補体カスケードが皮質線条体シナプス選択的な初期の変性や、発症前HDにおける認知障害の発症に関わっていることを明らかにし、また補体が早期介入の治療標的であることを裏付ける新たな前臨床データを示している。

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