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がん:脂肪酸酸化阻害はMYCを過剰発現するトリプルネガティブ乳がんの治療法となる

Nature Medicine 22, 4 doi: 10.1038/nm.4055

トリプルネガティブ乳がん(TNBC)での発がん性転写因子MYCの発現は、エストロゲン受容体陽性、プロゲステロン受容体陽性もしくはヒト上皮細胞増殖因子2型受容体陽性(RP)の乳がんに比べて、不均衡に高くなっている。腫瘍形成の間にMYCによって代謝が変化することは、我々や他の研究グループによってすでに明らかにされている。しかし、TNBCの代謝におけるMYCの役割についてはまだほとんど調べられていない。我々は、MYCを過剰発現しているTNBC細胞の増殖にはMYCに依存した代謝調節異常が不可欠なのだろうと予測し、もしそうならこの臨床上の難問となっている乳がんサブセットについて新たな治療標的を明らかにできる可能性があると考えた。ターゲットメタボローム解析の手法を用いて、MYCによって誘導されるTNBCモデルでは、脂肪酸酸化(FAO)の中間産物が大幅に増えていることが突き止められた。また、TNBC患者で脂質代謝関連遺伝子シグネチャーが見つかり、これががんゲノムアトラスデータベースなどの複数の臨床データセットから確認された。このことは、調節異常が生じている代謝経路がFAOであり、これがTNBC細胞の代謝に重要であることを示唆している。また、FAOの薬理学的阻害によって、MYCを過剰発現しているTNBC細胞のエネルギー代謝が壊滅的に低下し、MYCによって誘導される遺伝子組換えTNBCモデルとMYCを過剰発現しているTNBC患者由来の異種移植片での腫瘍増殖が停止することが分かった。今回の知見は、MYCを過剰発現しているTNBCではエネルギー代謝のFAO依存性が増大していることを実証するもので、FAOの阻害はこの乳がんサブセットに対する治療戦略となる可能性を示している。

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