Editorial

穏健な対策から始めよう

Nature Medicine 22, 3 doi: 10.1038/nm.4065

アメリカ大陸とその周辺の地域でのジカウイルス感染症の拡大に対する懸念の高まりを受けて、WHOは2月1日にこの流行が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」であることを宣言した。ウイルスは西半球の少なくとも26の国で見つかっており、感染者はブラジルだけで100万人を超えている。最も心配されているのは、妊娠中の女性の感染と胎児の小頭症との関連で、CDCは妊娠中の女性は流行地域への旅行を避けるように勧告している。エボラ出血熱流行の際には使用可能なワクチン候補がすでに作製されていたが、ジカウイルス感染症では臨床試験が行えるようなワクチン候補は皆無という状態であるため、各国の公衆衛生関連機関は流行地域への旅行の長期間にわたる厳しい制限だけでなく、妊娠をかなりの長期間にわたって先延ばしにすることまで勧告している。人から人へと迅速に広がったエボラ出血熱とは異なって、ジカウイルス感染症は蚊による伝播がほとんどである。その点を考慮すれば、流行を抑えるためにまず実行すべき対策は媒介に関わる種類の蚊の撲滅である。だが、さまざまな法律や財政的なハードルがこのような方向の努力を妨げているのが実情だ。撲滅に遺伝子操作を施した蚊を使うOxitec社の技術は5年も前に許可が申請され、小規模な放出実験が行われてデータは揃っているにもかかわらず、まだFDAの認可が降りていない。また、蚊に特異的に効果を発揮する殺虫剤もすでに市場に出ているが、駆除対策用資金の不足のために使われていない。こういった流行には、効果が確実な上に持続可能な、綿密に考えた幅広い対応が必要だ。感染症対策の予算をワクチン開発だけに注ぎ込むのは止めて、媒介生物駆除という「穏健な」対策にも投入すべきであると我々は考える。

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