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血液疾患:サラセミアでみられる高濃度のGDF15は鉄調節タンパク質ヘプシジンの発現を抑制する

Nature Medicine 13, 9 doi: 10.1038/nm1629

サラセミアでは、赤血球形成過程でグロビン鎖産生に欠陥があるために貧血となる。サラセミアは、輸血により増悪することが多い鉄負荷によって病態がさらに複雑化すると考えられており、多数の内分泌疾患、肝硬変、心不全などを併発して死に至ることさえある。輸血が行われていない場合でも、赤血球形成機構によって鉄調節ペプチドであるヘプシジン(hepcidin)が不適切に抑制されると、鉄の蓄積が起こる可能性がある。この仮説を検証するために、サラセミアに罹患していない健康な15名のヒト個体から得た赤芽球のトランスクリプトーム・プロファイルを解析した。トランスフォーミング増殖因子βスーパーファミリーに属する成長分化因子15(GDF15)は、赤芽球の成熟過程で発現とその分泌が増加する。健康な被験者の血清中の平均GDF15濃度は450±50 pg/mlであった。一方、βサラセミア症候群患者では、GDF15の血清中濃度は上昇しており(平均66,000±9,600 pg/ml、範囲4,800〜248,000 pg/ml、P<0.05)、上昇には可溶性トランスフェリン受容体、エリスロポエチンおよびフェリチンの濃度との正の相関がみられた。サラセミア患者から採取した血清は、初代ヒト肝細胞でヘプシジンmRNAの発現を抑制し、このヘプシジン抑制はGDF15を除去すると起こらなくなった。これらの結果は、赤芽球形成区画の拡大によるGDF15の過剰発現が、ヘプシジンの発現抑制によりサラセミア症候群における鉄負荷をもたらすことを示唆している。

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