Nature Video活用事例

琥珀の中に眠る小さな動物の頭蓋骨

宝飾品として取引される琥珀は、実はタイムカプセルでもある。その内部に小さな生物が閉じ込められていることがあり、保存状態がよければその生物の詳細を研究することもできるのだ。閉じ込められた生物を鳥類と考えた当初の論文は、著者によって取り下げられたが、この動画は琥珀内部の生物をどのように研究するかを知ることのできるものだ。古生物学者の関心を共有しよう。

かつて地球上に生きていた生物を研究する古生物学者にとって、この標本は神秘的なものだ。琥珀の中の動物を見ると、動物が死んだのはまるで昨日のことのようだ。化石となって残る骨以外のすべての軟部組織が、この小さな琥珀に閉じ込められており、まるで当時の世界をそのまま覗いているようだ。

この研究を発表したO'Connorは、この動物を鳥類であると考えて発表したが、「この化石は爬虫類の一種であるトカゲに分類されるべきものではないか」と他の研究者から指摘があり、この論文は著者からの申し出によって取り下げられた。この化石の他のデータが発表されるまで、この種を分類することはできないとO'Connorは述べている。

しかし、この琥珀に保存された動物の化石の発見は事実であり、この時代の生物について考えるための重要な手がかりになるはずだ。動画はこの動物を鳥であるとして考えた際の状況が描かれているが、上記のとおりこの動物は鳥ではない。分類の段階で誤りがあったものの、古生物学者がどのように化石を研究するかを知るための映像として紹介しよう。

琥珀に閉じ込められた化石

今回の話題である標本は、31.5mm×19.5mm×8.5mmの小さな琥珀の中にある。琥珀の中の動物は、現在生きているマメハチドリよりもさらに小さく、あごには歯がぎっしりとついている。歯の数は100本以上もありそうだ。側面には、大きな眼が突き出している。現在、この生き物は生存していないため、これらの形態が意味していることは、私たちの想像力を駆使して理解しようとする以外にない。

頭蓋骨が強く癒合していること、たくさんの歯をもっていること、大きな眼をもつことなどから、小さなサイズであるのにもかかわらず、捕食者であり、おそらく小さな昆虫を餌にしていたことが考えられる。しかし、眼が両側に位置しているため、一般的に捕食者である鳥が行う立体視をできないという点この化石は奇妙だが、トカゲであれば不思議ではない。

この動物が生きていた時代

この琥珀は1億年以上も前のものであり、この時代は中生代で恐竜の時代としてよく知られている。この小さな動物は、首の長い竜脚類恐竜や、翼竜のような空を飛ぶ爬虫類と共存していた。この琥珀は実に多様な白亜紀の動物相の一部であり、その琥珀の中に小さな生物が保存されている。このように例外的に保存された場所以外にも、小さな生物が存在していたかもしれないが、その証拠は何もない。

もしもこの琥珀がなかったら、私たちはこの小さな動物相を決して知ることはなく、ましてや存在さえも分からなかった生物の生態的地位を明らかにすることなんて不可能だっただろう。

どんな方法でこの標本から情報を引き出せるだろうか。現時点では、外から琥珀を通して観察し、そしてCTによる断層写真を撮影することで、骨についての研究を行っている。10年以内に、琥珀中に保存された軟部組織の生化学的な研究方法が進むことを研究者は期待している。そうすれば、そのような組織に存在するメラノソームを探し出し、どんな色だったかを明らかにすることができるかもしれない。メラノソームはメラニンと呼ばれる色素を含んだ細胞内の小器官で、現在の鳥類の羽にも大量に含まれている。

まだこの標本に対する研究は始まったばかりだ。これから本格的な研究が進められ、さまざまな発見がもたらされることだろう。

Nature ダイジェスト で詳しく読む!

Nature 2020年3月12日号245ページに掲載されたJingmai O’Connor氏を責任著者とする論文は、この化石標本を恐竜に分類した点に誤りがあり、不正確な情報が文献に残るのを防ぐために、著者らにより撤回されました。

琥珀に閉じ込められた超小型恐竜の完全な頭蓋

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200502

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

この論文は、著者によって取り下げられたものであるが、それでも発見された事実に変わりはない。この研究で扱われた琥珀とはなんなのか、また生物が琥珀の中にどうして取り込まれるのだろうかについて、疑問をお持ちの読者も多いことと思う。

琥珀は樹木から生じる樹脂がもとになっている。樹脂は樹木の表面に傷がついたとき、その部分を保護・修復されるために分泌されるもので、「やに」とも呼ばれる。樹脂に含まれる物質のうち「テルペン類」と総称される炭水化物が、地殻変動によって高温・高圧の下で化学組成が変化した結果、長い時間をかけて化石となったものが、琥珀だ。

やにから連想できるように、樹脂は粘り気が強いため、樹脂が流れ出ているところに偶然的に昆虫などの小動物が取り込まれてしまうことがある。この状態で化石になっていくと、今回の発見のように生物が保たれたままの状態で発見される。

極めて稀な例として、9900万年前の恐竜の尾部が保存されたものや、同じ時代の原始的な鳥類の雛の羽根などが琥珀中に発見されたものもある。これらはミャンマー北部のカチン州で多く発掘されている。

学生からのコメント

渡邉 貴徳

中生代の生物の筋組織や皮膚の直接的な研究はできないものと思っていたが、琥珀に閉じ込められているものを研究できる可能性があることに驚いた。生物の入った琥珀はアクセサリーとしても取引されているそうだが、太古の生態系の研究の難しさを考えると、研究利用しやすい制度を作るべきだと考える。(渡邉 貴徳)

高橋 優太

ここ数年の古生物の研究では、白亜紀に生息していたティラノサウルスに羽毛が生えていた可能性がある、と話題になった。大昔の生態系やそれぞれの生物に関する事実が明らかになりつつあり、世界の人々が驚くような新発見がとても楽しみだと感じた。(高橋 優太)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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