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Nature Video活用事例

人類史に疑問を投げかけた発見

The first Americans: Clues to an ancient migration

An archaeological site in California may have opened up a whole new chapter in the history of humans in the Americas. Researchers claim the site shows evidence of humans interacting with the bones of a mastodon, an ice age relative of elephants and mammoths. New dating suggests the site may be 130,000 years old – 100,000 years earlier than the accepted date for the first human colonisation of the Americas. Read the paper here. And a News & Views article here.

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奇妙な出土品

サウザンプトン大学(米)のJohn McNabbは、「この論文を目にしたときの最初の感想は、『違う、なにかが間違っている』というものだった。信じられなかったし、今でも信じていない」と興奮気味に語る。サンディエゴ国立歴史博物館(米)のTom Deméréは、「こんなことはありえない、論外だと思いました。これが本当なら、人類がアメリカ大陸に到来した時代について考え方を大きく変えなければなりません」と言う。

Deméré は、北アメリカでもっとも古いと考えられる遺跡の発掘の数年間をかけた研究の成果を発表した。「ある日、博物館の古生物学者 Richard Cerutti に頼まれて、発掘現場に出向きました。Cerutti は調査していた高速道路の改修工事の現場でマンモスの化石を発見したのです」と当時の状況を振り返る。Deméréたちは化石が少し奇妙な特徴があることに早くから気が付いた。

まず、この化石はマンモスではなく、マストドンだった。彼らは、鋭利な岩石の破片も発見した。この出土品は、マストドンの足の骨の一部だとDeméréは考えている。さらに彼らは、これらの骨と大きな岩石の関係を考えると、奇妙な問題があることに気がついた。なぜなら、このマストドンの残骸はシルト層で発見されているが、地質学的にはシルト層に沈み込んだり、同じように発見された大きなサイズの岩石が運ばれたりするとは考えにくいためである。Deméréたちはこれらの岩石がどのように運ばれて行ったのかを考えた。彼らがたどり着いた答えは、人類がこれらの岩石をこの場所に運び込み、そしてその岩石を使って、骨を壊したのだ、というものだ。

Deméréたちの発掘したサイトは約130,000年前のものであると考えられている。これはアメリカ大陸に人類が到達したと広く受け入れられている時代よりも、10万年も古い。

人類はいつアメリカ大陸に到達したか

今のところ、遺伝学的あるいは考古学的な研究から、人類は今から2万3000年前にベーリング海峡をわたってアメリカ大陸に渡り、現在のアメリカの人々の先祖となったと考えられており、130,000年前という今回の結果とは異なっている。

今回の研究結果は、そのときの人類はどのヒト族だったのか、という問題もある。これらの問題の答えにはいくつもの可能性があり、今回の発掘現場で人類の化石が発見されるまで、あるいはアメリカで同じような場所が発見されるまでは謎のままだ。

人類が130,000年前にここに存在したという証拠がこの発掘現場以外にないという理由で、この研究結果がありえないと考える考古学がいるとすれば、このサイトをもっとよく研究すべきだ、とDeméréは述べている。「この発掘現場と人類の関わりの証拠に対する説得力があるかどうかと問われれば、正直なところ懐疑的」とMcNabbは述べる。この周辺で人類の存在の証拠がほかに示されていないことが、そう思わせる原因の一つだ。McNabbは「ほとんどの研究者はもっと詳細に調査すべきだと考えるでしょう」という。石の道具がほんとうに叩かれて作られたものなのか、あるいはほかの方法でも説明がつくのか。もちろん、岩石で叩くことによって骨を壊すほかの方法も存在するが、そのような方法では発掘現場からの出土品を説明できないという。

Deméréたちは、象の骨が石のハンマーで叩かれるとどのように割れるかを、レプリカを使って実験した。このように壊された骨は発掘現場で発見されたものの破壊パターンと矛盾しないという。McNabbは、「考古学的に奇妙な発見はこれまでもありました。130,000年前にアメリカ大陸に人類が存在していたという今回の結果は信じ難い。しかし、そのようなストーリーが完全に不可能だということではないと思います。ただ、人類史を書き換えるというまでにはなっていないと思います」と言う。

学生との議論

Credit: Lisa-Blue/E+/Getty

ヒトがアフリカに誕生してから、どのように日本にたどり着いたのかという話題は、学生だけでなく多くの人々に関心があり、現在さまざまな研究手法で積極的に研究されている。

ヒトの細胞中の核に含まれているDNAは、約99.9%の部分はすべてのヒトで共通しているが、0.1%に違いがあり、この違いが個人差をもたらす。しかし、この0.1%の違いはすべての人でまったく違っているわけではなく、地域の民族の間で似ていることがわかっており、この部分を比較して解析することでどのように集団が分かれていったかを解析できる。

福島県新地町の三貫地貝塚から発掘された人骨の解析結果では、日本に4万年前から2万年前の間に渡ってきた人々が縄文人の祖先となり、ほかのアジア人と交わらずに進化を遂げたと言われています。その後、再び大陸から多くの人々が日本に到来した弥生人が縄文人と交わり、日本人の集団を形成していったことが示唆されている。

より多くの遺跡から発掘される人骨でこのような解析が進めば、日本人がどのようなルーツをもっているかをより明らかにできることになる。

学生からのコメント

映像から、人類の広がりについて定説が覆されるような発見に遭遇した研究者の相当の驚きが伝わった。この映像と記事から「人類はアフリカから、なぜ寒いシベリアやアラスカへとわざわざ移動していったのだろうか?」という疑問がわいた。(西田 昂太)

地球がどのような姿を知らない頃、もちろん世界地図もない時代に、人類はどのように自分たちがいる場所や向かう先を把握していたのだろうか。自分たちが進む大陸や海の向こうに何があるのか、わからないまま旅をする古代人たちが何を思っていたのだろう。(柴崎 啓介)

Nature ダイジェスト で詳しく読む

人類の北米への到達は通説より10万年も早かった?
  • Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170702

クリエイティブ・コモンズ・ライセンス
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Nature ダイジェストISSN 2424-0702 (online) ISSN 2189-7778 (print)