Nature Video活用事例

3Dプリンターでガラス造形物をつくる

化学の実験室にある、らせんを描くガラス管や枝のついた複雑なガラス製品は、専門の技術者が製作したもの。美しいガラス工芸品も芸術家の独創性に培われたものだ。現在、さまざまな分野に急速に普及している3Dプリンターで、複雑な形をしたガラス作品を作るという手法が開発された。

3Dプリンターの活用

ガラス製品といえば、ドロドロに融けた熱いガラスを吹いて膨らませながら成形したり、大きなガラスのかたまりを彫り上げたりする様子を連想させる。しかし、今回紹介している映像で見られるガラスの作品は、吹いたり彫ったりして作られたものではない。最近は10万円以下でも販売されるようになった、3Dプリンターで作られたものだ。

3Dプリンターは、3次元の構造体を2次元の平面状な物体の積み重ねとして、立体的に作り上げていく。最終的には固い造形物を作り上げる3D印刷で、物体は樹脂などのポリマー(高分子化合物)から作られるが、プリンターのノズルから吹き出すもの(インクに相当する)は柔らかくなければならない。加熱されて柔らかくした樹脂を吹き出して薄い層を作り、冷やして固める方法や、紫外線を照射すると固まる樹脂で層を作って重ねていく方法などで立体的な造形物を作り上げるほか、いろいろな方法が開発されている。

近年の3Dプリンターは、製品や部品などの試作品の開発に利用されたり、建築分野でデザインをプレゼンテーションするために使われたり、医学の分野ではCTやMRIなどの断層写真から得られたデータをもとにして実物大の臓器を作成し、実際の外科手術のための検討材料として用いられたりもする。「オーダーメイド」の立体造形物を手軽に作ることができる点が3Dプリンターの魅力である。

ガラス作品の新しい作り方

ガラスは光学的にも物理学的にも特徴的な素材で、科学分野の研究を行う上で重宝されてきた。化学実験に使われる複雑な形状のガラス製実験機器は、ガラスをバーナーで融かして曲げたり伸ばしたり、あるいはほかのものと接合させたりして作り上げるものだ。ガラスで作られた芸術作品としての造形物は、酸によって表面を腐食させたエッチング加工を施したりして美しく仕上げている。しかし、特に高純度のガラスを成形するには高温の作業工程が必要であることや、有害な化学物質を使用しなければならないなどの欠点がある。

ドイツのFrederik Kotzらの研究は、ガラス製品の新しい作成法の道を開いた。3Dプリンターでガラスの造形物を作り出し、あらゆる種類のガラス製品を3D印刷で作り出すことを可能にしたのだ。今回開発された手法は、微小なガラスの粉末を、紫外線によって固まる高分子化合物中に分散させ、標準的な3Dプリンターで造形物を作成するもの。プリントされた作品を1,300℃まで加熱すると、樹脂成分は蒸発し、微小なガラス粒子が融けてガラス素材の造形物が残される。さらに、金属塩を添加することで着色したガラスを作り出すこともできるという。

造形物の複雑さはプリンターの解像度によってのみ決まり、小さなものから芸術的な作品まで、さまざまな大きさのものを作ることができる。3Dプリンターでガラス造形物を作り上げることを可能にしたこの研究は、産業界や学術界の多くのガラス製品の用途をさらに広げると期待される。

Nature ダイジェスト で詳しく読む!

ガラスの3D印刷の仕方

Nature ダイジェスト Vol. 14 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2017.170732

学生との議論

Lisa-Blue/E+/Getty

可視光線に対して透明で、薬品に侵されにくく、高い耐久性をもつという特性から、日常的にありふれているガラス。ガラスの主成分は二酸化ケイ素であり、地球上のいたるところに存在する。ガラスと人類の関わりは古く、エジプトやメソポタミアの古代文明の頃にも出現していたという。火山からの溶岩がガラス状に固まった黒曜石は石器時代にも刃物として利用されていた。現在ではさまざまな方面にガラスが利用されている。

着色された色ガラスが割れても、色の成分が流れ出すことはない。色の成分がガラスと一体化して取り込まれているためである。この性質を高レベル放射性廃棄物の処分に利用する計画がある。日本の原子力発電所での使用済み核燃料を再処理する過程で生じた液体状の高レベル放射性廃棄物を、ガラスの原料に溶かしこみ、冷やして固めた「ガラス固化体」が作られている。これを適切な容器に入れて少なくとも10万年という長い期間、地下深部に貯蔵・保管するという処分計画が立てられている。

学生からのコメント

原口 敬吾

3Dプリンターでさまざまなものが作られていることは知っていたが、そのプリンター自身にもいろいろな種類があるとは知らなかった。これらがより広く使われるようになっても、伝統的な産業、たとえば手製のガラス細工や工芸技術が衰退することのないようなしくみが必要だと思う。(原口 敬吾)

田中 海斗

放射性廃棄物をガラスに閉じ込めるという方法が紹介されたが、私たち日本の国民がこのような廃棄物をどのように処分するのか、まったく知らされていない。国民全体が考えなければならない放射線のことについて、まずは「知る」ことが大切だと感じた。(田中 海斗)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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