SDG Perspectives from Japan

地球環境および漁業資源を持続するための海洋科学

羽角 博康

原文: 1 Mar 2016 | SDG Perspectives from Japan: Insights from Hiroyasu Hasumi, an oceanographer

―― ご自身の研究はSDGsとどのように関係していますか?

私が外洋、特に深い海、深層の海の研究を始めた理由は、温暖化の中で海がどう変わり、どんな役割を地球環境の中で担っていくのかに興味があったからです。現在は、外洋や陸とのつながりの中で、沿岸の環境変化をシミュレーションしており、その研究がSDGsにつながっていると考えています。

ただ当初は、深層流の解析といった非常に専門的な研究がSDGsに関係することになるとはあまり思っていませんでした。それが、SDGsのゴールやサブゴールの中で、エビデンスを蓄積していく科学的手法の必要性が求められるようになり、SDGsを意識するようになりました。今年から国連海洋科学の10年1が始まりますが、「われわれが普通に研究していればSDGsにつながる」という認識を持ってきたのはここ2〜3年ではないかと思います。

深層海流の概念図
深層海流の概念図

Credit: Hiroyasu Hasumi

―― 外洋と沿岸や陸とのつながりについて教えてください。

東日本大震災の時、岩手県大槌町の研究施設にも津波がきて、3階建ての建物の2階まで浸かりました。そういう中で、国家プロジェクトとしては珍しい10年間にわたる東北マリンサイエンス研究拠点構築事業(海洋生態系の調査研究)2がスタートしました。われわれは大槌湾を中心として、東北三陸沿岸の海の環境がどう変わったのか、どう回復していくのかを研究しています。

例えば、大槌湾は幅数キロくらいの小さな湾なので、湾内と外洋の行き来をシミュレーションすることで、他の湾から魚介類の卵や幼生が来る可能性を確認しています。また、大槌湾の鮭は大事な漁業資源ですから、鮭の成育環境のシミュレーションを行っています。それに加えて、大槌湾の栄養物質環境がどう決まるかを確認するために、低次生態系の植物プランクトンや動物プランクトンと、それにつながる栄養物質を入れたシミュレーションも行っています。

三陸沿岸シミューレーション結果(海面水温)
三陸沿岸シミューレーション結果(海面水温)

Credit: Hiroyasu Hasumi

―― SDGsに関連する研究において、トランスディシプリナリー(超学際的)な連携はどのくらい重要でしょうか。そして、それを効果的に実施するにはどうすればいいですか。

私がいた気候システム研究センターと海洋研究所が合併して大気海洋研究所ができた際、異分野との連携が課題になりました。たまたま、ある会議で隣り合わせになった海洋研の先生は「バクテリアの研究をしています」、私は「海洋物理シミュレーションです」という話になり、「ではバクテリアから共同研究をやりましょうか」ということになりました。異分野との連携はきっかけが必要なんです。一致できるテーマを見つけて、無理やりにでも始めないと連携はできないと思います。やってみると具体的な動きが広がるはずです。

また、私の海洋科学研究者としてのモチベーションは環境問題につながっており、温暖化というグローバルな問題に取り組んでいます。それに対して物理学的なアプローチは、生態系、生物を研究する前に、海の流れの実態とそれができる原因を追究することになります。

沿岸を研究するには、陸から水と一緒に物が入ってくる沿岸の生態系─里海─への影響をシミュレーションすることが必要になります。このように、海洋環境の研究は異分野とつながらないとできないのです。ただ、自分の研究で手一杯なこともあり、異分野との融合が必要だと思いながらその分野の勉強は難しいのが実際です。融合しなければという前に、現場で動いて初めて異分野と融合できるというのが実感です。

―― 若手研究者がSDGs関連の研究にもっと参加するにはどうすればよいでしょうか。また、ご自身の研究においてインスピレーションを感じる瞬間はありますか?

例えば、グローバルな環境問題を扱いたいと思っていても、研究者としての一歩を踏み出す際はいきなり壮大なことはできません。私も最初は、海洋の深層の流れがどうなっているかというところから始めました。実際のところ、温暖化を研究するのであればCO2の問題(海中の物質)を追究する必要がありますが、私がM1になって海洋の深層の研究を始めてから最初の5年くらいは、そこまでは手が出せないと思っていました。ただ、そういうモチベーションを持っていたからこそ、結局はそこに手を付けることができたのです。そういう意味では、やはりモチベーションを持っていることがSDGsにつながる研究になると考えています。

私は試行錯誤の人なんです。一つひとつの研究では、最初からもっともらしい結論は出ません。設定を頻繁に変えたり、パラメータを変えたりしながら、モデルシミュレーションを行っていく中で違いが見えてきたり、とんでもない結果が出るのが実際です。

ですから、普通の実験をやっている研究者の感覚とそれほど変わらないと思います。じっと考えても分からないので、海であれば、場所や個々の現象を決めて、手を動かすことが必要となります。電気代がかかることに罪悪感がありますが、それ以外の資源は消費せずにいくらでもシミュレーションできるので、その点では誰にも迷惑はかかりません。

―― 最後に日本の役割とはなんでしょうか。

非常に個人的な感覚ですが、日本人は環境問題やネルギー問題に関して、割と先進的だと思ってきたのではないでしょうか。しかし、今世界的に見ると危機の認識や行動で日本は遅れているような気がします。ですから、日本人は心を新たにして臨まないといけないと思っています。

海洋科学研究も、国の予算で研究する以上、国民に支えていただかないといけません。科学者としてもその辺の認識を新たにすると同時に、国民の意識レベルも上げる必要があるのではないかとも考えています。

国際的な競争・協調という意味では、海洋科学研究においては各国の分担があります。目の前の海に関する研究は、日本の責任として期待されるので、きちんとやっていくことが大事です。他国に庭先のことをやってもらってもいいのですが、われわれこそが一番だという気概をもつことが大切だと思っています。

  1. 2017年12月、国連総会において2021年から2030年までを「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」とすることが決議された。国連海洋科学の10年は海洋に関する各分野の深い理解を生かし、学際的な対話を強化し、課題解決型研究を推進して、国や社会的アクターによる持続可能な開発の実現に資する新しい知識や革新的な技術を創生することを目指している。
  2. 水産業の復興支援を目的として被災地域の海洋生態系を調査研究するプロジェクト(文部科学省の海洋生態系研究開発拠点機能形成事業費補助金制度)。東北大学、東京大学、海洋研究開発機構が中心となって、水温・塩分といった海洋環境や魚介類の生息状況、海底のガレキの分布状況等を調査する。また、得られたデータを総合的に解析して海洋生態系の変化メカニズムを解明することにより、科学的知見に基づいた新たな漁業モデルの提案を目指している。

本記事は、Springer Natureサイト「The Source」、並びに東京大学IFIのサイトでご覧いただけます。

Author Profile

羽角 博康(はすみ ひろやす)

東京大学大気海洋研究所 教授

海洋の数値モデルを開発しながら、気候の成り立ちや変動に関して海洋物理学を中心視点として数値シミュレーション研究を行っている。グローバルな海洋深層循環とそれに係る極域海洋プロセスを専門とする一方で、IPCC第4次評価報告書以降の地球温暖化予測シミュレーションに携わり、太平洋地域における海洋と気候の変化に関する研究にも取り組んできた。近年は、北極域に関する大型研究プロジェクトにおいて気候変化研究をリードするとともに、日本周辺における海況の詳細な数値シミュレーションにも取り組んでいる。また、陸上の人間活動の結果が河川流出物質を通して海洋環境に及ぼす影響に関する研究も展開しつつある。

羽角 博康氏
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