Nature ハイライト

進化学:性選択への新しい道筋

Nature 570, 7761

性選択の原動力に関する有力な仮説の1つは、フィッシャーの「ランナウェイ過程」で、雄の形質にはその形質に対する雌の選り好みが関係していると考える。雄の形質と雌の好みは、両方が固定されるまで共に進化する。このとき重要なのは、クジャクの長い上尾筒であれ、カエルの甘美な鳴き声であれ、形質の種類は雌に好まれる限り何でも構わないことである。しかしこの仮説には、「ハンディキャップ原理」や「優良遺伝子仮説」といった他の仮説と同様に、雄の形質やその形質に対する雌の選り好みが、いずれも全くのゼロからは始まり得ないという問題がある。では、雄のディスプレイ形質とそれに対する雌の選り好みは、どのように始まったのか。その答えは、一種のごまかしのようだが、そうした形質と選り好みの進化では、それらは何らかの確率論的過程によって集団の一定の割合にまで徐々に数を増やす必要がある、というものである。これは、遺伝的浮動あるいは中立進化によって起こると考えられている。今回P Muralidharは、こうした行き詰まりを打開する新たな仮説を提案している。異なる性染色体、特に雌を介してのみ伝わる遺伝的要素(鳥類やチョウ類のW染色体など)を持つ種では、雌には利益となるが雄にはコストとなる形質に対して選り好みを示すことがある。雌のこうした選り好み(この好みは娘に伝えられる)はコストを伴わないため、その広がりはほとんど制約を受けないが、雄はこれに振り回されてコストを負担せざるを得なくなる。XY型(ショウジョウバエや哺乳類など)の場合や性染色体に偽常染色体領域がある場合は話は複雑になるが、それでも最初に必要なのは、種が別個の性染色体を持つことだけである。

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