Research Highlights

グラフェン:スピン緩和の仕組みを調べる

Nature Nanotechnology 2014, 514 doi: 10.1038/nnano.2014.97

グラフェンは、数マイクロ秒程度という長いスピン寿命が予想されるため、スピントロニクス用途で利用できる可能性がある。この長いスピン寿命は、軽元素材料ではスピン軌道結合が小さいことに起因している。しかし、これまで行われたスピン緩和時間の実験的測定結果は全て100 ps程度であり、こうした大きな相違の原因はまだ十分に解明されていない。レーゲンスブルク大学(ドイツ)のJ Fabianたちは今回、スピン寿命の減少に主に寄与しているのは、局在磁気モーメントによる共鳴散乱である可能性があることを、第一原理計算によって示している。

提案されたスピン緩和の増強機構は、空孔や吸着原子に局在する磁気モーメントの「スピンホットスポット」作用として解釈することができ、電子エネルギーが磁性不純物のエネルギー準位と共鳴するときに起こる。その場合、電子スピンが保存される確率と反転する確率が等しくなり、スピン寿命は大きく減少する。Fabianたちは、吸着水素原子による局在磁気モーメントについて検討しているが、強い局在スピン軌道結合を生じさせると考えられる重い吸着原子の場合にも、この結果は当てはまる。局在磁気モーメントの濃度が1 ppm程度の場合に実験結果と一致するスピン寿命の値が見いだされているので、スピンを用いた測定において極めて清浄なグラフェン試料の実現が重要であることが明確になった。

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