Editorial

医学におけるエビデンスを再考する

Nature Medicine 29, 1 doi: 10.1038/s41591-022-02186-3

医学がエビデンスに基づくものになったのは比較的最近で、「エビデンスに基づく医療」という言葉ができたのは1992年である。本誌では、年間を通じたシリーズとして、現在の医学的エビデンスが抱えている難問を、新規な治療薬やヘルスケア技術の効果や安全性に注目しながら再考していく。例えば、精密医療は従来からのプラセボ対照試験に多くの難問を投げ掛けており、その一例は遺伝子治療などによる希少疾患の治療が、患者が少ないため大規模な試験を行えないというものだ。また、AIや機械学習、またウエアラブル端末の使用などでは、新しい技術の全てが健康に利益をもたらすわけではなく、規制当局は、短期的な利益とともに長期的な害を評価する枠組みを開発する必要がある。こうした問題は遺伝子編集技術でも同様である。また、臨床試験の参加者として女性やマイナーな祖先系集団の人々をもっと増やさなければ、臨床試験の正確さが失われることも大きな問題である。こうしたさまざまな問題に対処するためには、一般市民、患者、政策立案者、政治家に対して、医学研究とそれを取り巻く、以前とは全く違ってしまった状況についてもっと説明していくことが必須である。この新しいシリーズは、こうした問題に関する議論の出発点となることを意図しており、扱われる論点や優先順位について読者の考えが共有されることを期待している。

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