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「まるで自分自身の一部が奪われたようだった」──神経インプラント臨床試験の終了がその後の生活に及ぼす影響

Nature Medicine 26, 8 doi: 10.1038/d41591-020-00028-8

脳深部の刺激がパーキンソン病での振戦(震え)を抑制できることが示されてから、埋め込み型脳デバイスは神経学研究の主流となった。脳深部刺激療法(DBS)を用いた複数の臨床試験で有望な結果が得られ、技術的進歩や脳のさまざまな領域の機能が判明したこともあって、米国FDAは1997年にパーキンソン病の振戦に対して、その後もジストニアやてんかんなどについて、DBS使用を承認している。しかし現在、この種のデバイスの臨床試験終了後のケアについて、さまざまな懸念が高まっている。埋め込み型脳デバイスの研究では、動物モデルはデバイスの作動性を試験する程度にしかならないため、臨床試験は深刻な神経疾患患者をボランティアとして開始され、その大半は他の治療選択肢の多くを試みたが効果がなかった人々であった。この種の技術は人間の自己の感覚に大きな影響を及ぼす可能性があり、場合によっては自己とデバイスを一体化した「ハイブリッド・アイデンティティー」と呼ばれる感覚をもたらすことさえある。だが、試験が終わってデバイスが取り除かれれば、全てがなくなってしまうのだ。神経デバイスの臨床試験後の責任については、倫理上もしくは法律上の明確な枠組みがなく、標準的対処法も決められていないのが現状である。それに加えて、こうした喪失感が人間性に及ぼす強い影響への対処の方法も、神経インプラントの臨床試験後の責任とケアに関する議論に組み込むべきものではないだろうか。

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