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水頭症:出血後水頭症で起こる脈絡叢上皮による脳脊髄液の炎症依存性過剰分泌

Nature Medicine 23, 8 doi: 10.1038/nm.4361

脈絡叢上皮(CPE)は、液体(脳脊髄液、CSF)を他のどんな上皮よりも大量に分泌しており、同時に免疫細胞の中枢神経系への侵入を防ぐための血液脳脊髄液関門としても機能している。脳室内出血(IVH)後に生じたCSFの貯留を原因とする脳室の異常拡大である出血後水頭症(PHH)はよく見られる疾患であり、通常は余分なCSFを取り除くシャント手術という次善の方法により治療される。PHHは従来、CSF再吸収の一次性障害が原因であるとされているが、この説を裏付ける実験的証拠はほとんどない。一方、CSF分泌がPHHの一因となる可能性についてはほとんど考慮されてこなかった。我々はPHHのラットモデルを使い、IVHによってCPEでToll様受容体4(TLR4)およびNF-κBに依存する炎症応答が引き起こされ、同時にブメタニド感受性のCSF分泌がほぼ3倍に増加することを実証した。IVHによって誘導されるCSFの過剰分泌は、Ste20型ストレスキナーゼSPAKのTLR4に依存する活性化を介して引き起こされる。SPAKは、CPEの頂端膜で共輸送体NKCC1に結合してこれをリン酸化し、活性化する。TLR4もしくはSPAKを遺伝学的手法で欠失させると、TLR4-–NF-κBシグナル伝達のアンタゴニストあるいはSPAK–NKCC1共輸送体複合体のアンタゴニストを投与した場合と同様に、過剰活性化されたCSF分泌速度が正常に戻り、PHHの症状が軽減される。今回得られたデータは、CSFの過剰分泌がPHHの病因に関わるという、これまで認識されていなかった事実を明らかにしており、脳内環境の調節にTLRが果たす新規の役割を明らかにし、CSF分泌のキナーゼによる調節機序を突き止めたもので、これらを治療標的として米国食品医薬品局(FDA)認可済み薬剤を水頭症治療に転用する可能性が考えられる。

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