Editorial

米国の生物医学分野に降ってきた「思いがけない幸運」

Nature Medicine 22, 2 doi: 10.1038/nm.4048

米政府が国立衛生研究所(NIH)の2016年度予算の20億ドルの増額を承認した。この増額は安堵の声で迎えられ、楽観論が広がっている。これまでNIHの予算は減額の一途をたどり、申請されるグラントのうちで予算がつくものは2割以下という状況になっていたので、2016年度分の前年度比6%増額は大いに歓迎されたのである。増額の対象となるのはがん研究、アルツハイマー病研究、最新技術を使って脳活動の全体像を解明するという大型プロジェクトのBRAINなどに加えて、抗生物質耐性菌への感染対策と耐性菌の根絶に関する研究も含まれている。しかしこの増額は2016年度のみである。だが、オバマ大統領の任期中に技術が飛躍的に進歩して、画期的な成果が上がるとはどうにも考えにくい。これらの研究で政府が求めているような遠大な目標を達成するには、予算増額が2016年以降も継続されることが必須条件だろう。また、こうした大型研究の他に、世界で多数が感染している結核やHIV、またエボラ熱やMERS、最近出現してきたジカウイルス感染症のような人獣共通感染症に対する治療法やワクチン、また封じ込め戦略の研究に対する予算も増額されなければ、世界は将来、健康に対する重大な脅威を抱えることになる。  今回の増額に対してこうした批判をすることは当然かつ容易なことだろう。だが考えてみれば、米国の基礎科学および生物医学関係予算はこれまで、他の国に比べると飛び抜けて大規模だったといえる。そして今回の増額も、科学研究への投資の重要性が認識されていることの表れと見ることができる。増額を受ける分野の研究者たちは、どのような使い方をするかが世界の科学研究政策にも大きな影響を及ぼすだろうことを考えて、賢明な使い方を心がけなくてはいけない。

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