Editorial

がん研究の共通基盤の必要性

Nature Medicine 20, 1 doi: 10.1038/nm.3456

科学研究データの再現性という問題は、一般的な報道と科学関係の報道の両方で大々的に報じられることの多い話題である。だが、2つの薬理ゲノム学研究の結果の比較から、データの再現性について、また別の種類の問題が明らかになってきた。 最近、数百のがん細胞株についてゲノムの特徴を調べ、それを使って既存の抗がん剤に対する感受性を予測する、包括的なin vitro解析が、2つの研究グループによって別々に行われた。同時期に発表され、かつ内容的に重複する部分があったことで、この2つの結果の比較が行われたのだが、遺伝子発現データはおおむね一致しているにもかかわらず、各細胞株の薬剤感受性予測の方は、意外にもほとんど一致していないこと、またゲノミクスデータと薬剤感受性の関連づけも結果が一致していないことが明らかになった。これら2つの論文では薬剤投与後の細胞の生存に関するアッセイに使われた方法が異なっていたことが分かり、これが不一致の主な理由だろうと考えられた。だが、同じ薬剤について、同じ株の感受性を同じ方法で測定した実験でもIC50値が一致しておらず、また別の要因、おそらく実験方法の差異が結果に影響している可能性が浮上した。抗がん剤投与に対する感受性予測がこのようにばらつく背景には、がんの薬剤感受性の基盤となる機序がまだよく解明されていないことがある。したがって、遺伝子発現やゲノムの変化と薬剤応答との関連を明らかにし、それを個別化治療の方針決定に使えるようにすることは、こうした問題に対する解決法の1つとなる。しかし、ゲノミクスにおける急速な技術的進歩に比べると、細胞レベルのアッセイ法についてはそれに匹敵するだけの進歩と標準化がなされておらず、高い再現性やin vivoでの予測に使える基準が明確になっていない。このことは、ゲノミクスの将来に暗雲を投げかけることになりかねない。データの評価を共通したものにできる標準的手法の必要性は喫緊の問題なのである。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度