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腎疾患:テロメラーゼおよびWntシグナル伝達の調節制御を介する成体腎臓足細胞の可逆的細胞周期進入

Nature Medicine 18, 1 doi: 10.1038/nm.2550

哺乳類腎臓での上皮細胞再生機序、特に慢性腎疾患での細胞傷害部位である糸球体における再生機序については、まだほとんどわかっていない。糸球体中の足細胞(分化した上皮細胞で濾過に極めて重要)は、再生能力を相当度失っていると考えられている。今回我々は、テロメラーゼタンパク質因子TERTを条件的に発現する成体マウスでは、足細胞が急速に分化マーカーを失って細胞周期に進入することを示す。マウスに遺伝子導入したTERTの発現は、Wntシグナルの著しい上方制御を誘導して、糸球体構造が破壊され、その結果HIV関連腎症(HIVAN)などのヒト疾患に類似した虚脱性腎糸球体症が発症する。ヒトおよびマウスのHIVANの腎臓では、TERTの発現増大とWntシグナル伝達活性化が見られ、これらが虚脱性腎糸球体症の一般的特徴であることを示している。TERTトランスジェニックマウスまたはHIVANモデルマウスで、導入したTERT発現のサイレンシング、またはWntを阻害するDkk1の全身性発現によるWntシグナル伝達阻害は、細胞周期からの迅速な脱出、分化マーカー再発現や濾過障壁機能の改善など、足細胞の著しい正常化をもたらす。今回の結果は、足細胞が細胞周期に可逆的に進入するという予想外の能力を持つことを明らかにしており、足細胞の再生が糸球体の恒常性に寄与する可能性、また足細胞の増殖および疾患発生にテロメラーゼおよびWnt—βカテニン経路が関与していることを示唆している。

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