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がん:脂肪細胞は卵巣がんの転移を促進し、速やかな腫瘍増殖のエネルギーを供給する

Nature Medicine 17, 11 doi: 10.1038/nm.2492

卵巣がんなどの腹腔内腫瘍は、主に脂肪細胞からなる器官である大網に転移しやすいという明瞭な指向性をもっている。腫瘍細胞が大網に選択的にホーミングし増殖する理由は今のところ不明だが、卵巣がん罹患女性の腹腔内で大網転移は一般的に最大の腫瘍となる。本論文では、初代培養ヒト大網脂肪細胞が卵巣がん細胞のホーミング、移動、浸潤を促進すること、またインターロイキン8(IL-8)などのアディポカインがこのような活性にかかわっていることを示す。脂肪細胞と卵巣がん細胞を共培養すると、脂肪細胞から卵巣がん細胞へ脂質が直接移動するようになり、in vitroおよびin vivoで腫瘍増殖が促進された。さらに、共培養によって脂肪細胞内では脂肪分解が、がん細胞内ではβ酸化が誘発され、これは脂肪細胞ががん細胞のエネルギー供給源として働いていることを示唆している。タンパク質アレイにより、大網転移部では原発卵巣腫瘍に比べると脂肪酸結合タンパク質4(FABP4、別名aP2)の発現が増加していることがわかり、FABP4発現は脂肪細胞と腫瘍細胞の接触領域にある卵巣がん細胞でも検出された。FABP4欠損はマウスで転移性腫瘍の増殖を大幅に障害し、これはFABP4が卵巣がんの転移に重要な役割をもつことを示している。これらのデータは、脂肪細胞が腫瘍の速やかな増殖に使われる脂肪酸を供給していることを明らかにしており、脂肪細胞が組織微小環境の主要構成成分であるようながんの治療では、脂質の代謝と輸送が新規標的となることが確認された。

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