Event report

サステイナビリティ研究が拓く持続可能な未来 — 科学と社会の連携でSDGs達成を目指す

2015年の国連サミットで採択された「持続可能な開発目標」(SDGs)。2016〜2030年の15年間で17の目標の達成を目指す。そのために、学際的なサステイナビリティ研究が果たす役割は何か。2018年9月20日、国連大学(東京・渋谷)で、本タイトルの下、多分野の専門家が集まり熱心な議論が行われた。このイベントは、最先端のサステイナビリティ研究を掲載するNature Sustainability が、2018年1月に創刊されたのを機に企画された。

サステイナビリティ研究が拓く持続可能な未来

SDGsは多岐にわたっており、目標達成にはさまざまな分野の連携が不可欠である。イベントは、生態学・環境学の科学者、国際法が専門の法学者、持続可能な開発に関わるシンクタンクの政治学者、国内外の地域環境計画に携わる研究者、世界各地の教育政策の実践と評価を専門とする研究者、自治体の首長が参加し、2部構成で、それぞれ基調講演とパネルディスカッションが行われた。

政治と科学が担う役割

アイオラ・ザバラ氏
アイオラ・ザバラ(Nature Sustainability, アソシエイト・エディター)

第1部では、Nature Sustainability のアソシエイト・エディター、アイオラ・ザバラ氏を司会に、サステイナビリティ研究における政治と科学のあり方について討論された。

開会に当たり、ザバラ氏は、「持続可能な社会実現が叫ばれて20年。転換期を迎え、サステイナビリティ研究の重要性が高まってきた。そんな中、Springer Natureは、2018年1月にNature Sustainability を創刊した」と語った。その上で「サステイナビリティ研究には工学や自然科学だけでなく、社会科学など多分野の科学が貢献している」と、統合的な科学であるサステイナビリティ研究の現状について展望した。

最初に登壇したのは、東京大学サステイナビリティ学連携研究機構(IR3S)の機構長、武内和彦(たけうち・かずひこ)特任教授。Springer Natureが発行するもう1つのサステイナビリティ研究の学術誌、Sustainability Science の編集長を2006年から務める。

武内和彦(たけうち・かずひこ)氏
武内 和彦 氏(IR3S 機構長・特任教授、IGES 理事長)

武内氏は、サステイナビリティ学は、課題解決型の科学であり、「研究者が最初から可能な限り社会と議論することが必要」と強調した。指数関数的に論文が増える中、「研究のコアの分野を環境システム、すなわち社会・生態システムが占めるようになり、エネルギー、経済、健康も重要になってきた」と、研究内容の質的な変化を語った。

また、自然と人間の関係も変化が求められていると指摘。かつては小規模に密接だった関係が、都市化によって分離されてしまった。しかし、持続可能な開発には両者が再び歩み寄ることが必要で、「バイオマス、風力、水力など、中央集権的ではなく地域分散の資源を活用しなくてはならない」と述べた。

学術界にも変化が生まれ、2018年3月に国際科学会議(ICSU)が国際社会科学評議会(ISSC)と合併して国際学術会議(ISC)が誕生したことは、「自然科学と社会科学が統合した歴史的な快挙であり、学問分野の壁、学界と社会の壁を打ち破った」と言う。

持続可能な開発目標(SDGs)
Sustainable Development Goals 世界を変えるための17の目標 | 拡大する

さらにSDGs達成には、17の目標とその達成のための169のターゲットのつながり(連関性)を理解することが重要だと訴えた。

髙村(たかむら)ゆかり氏
髙村 ゆかり 氏(名古屋大学 大学院環境学研究科 教授)

続いて、名古屋大学大学院教授、髙村(たかむら)ゆかり氏が基調講演を行った。まず、気候変動に関する政策の歩みを概観。1988年にIPCCが発足し、その評価報告書をもとに、92年に気候変動枠組み条約、97年に京都議定書、2015年にパリ協定が採択された。このように科学と政策は相互に影響し合ってきた。パリ協定の目標は、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑えるよう努力することだ。髙村氏は「現時点での取り組みでは不十分。達成にはイノベーションを加速させる必要がある」と強調した。

次に、国際的投資家や国連などが主導するSBTイニシアチブに言及。これは、2℃目標達成のために科学的な対策を打ち出した企業を認証するものだ。髙村氏はこうした流れの背景に、企業の社会的貢献、ブランド戦略、温暖化による流通への懸念、再生可能エネルギー市場へのビジネスチャンスを挙げた。だが、「最も大きいのは、投資家が企業の脱炭素への転換を監視するようになったことだ」と指摘。さらに、「金融機関も企業に低炭素への移行を求めている」と話した。

エリック・ザスマン氏
エリック・ザスマン 氏(IGES 持続可能性ガバナンスセンター・リサーチリーダー)

最後に演壇に立ったのは、IGES持続可能性ガバナンスセンター・リサーチリーダーのエリック・ザスマン氏。ザスマン氏は、SDGsの異なる課題が、どうつながっているか相関性の研究を進めており、その可視化ツールを作成、ホームページで公開している。

ザスマン氏は「気候変動は、大気汚染、公衆衛生と連関している。大事なのは、こうした連関性が政策に影響することだ」と話す。だが、そうした連関性の理解よりも重要なのは、課題解決に関わる政府機関、市民社会、ビジネス、そして学術界の「利害の調整」だと指摘した。その難しさの例として、スリランカで進めるSDGs11「住み続けられるまちづくり」の取り組みを挙げ、「10のターゲットがあり、30の政府省庁と103の機関が関わっている。1つの政府機関では調整はできない」と語った。

さらに、利害調整についての概念モデルも構築し、発表。そのモデルを使ったアジア太平洋地域のケーススタディを紹介。こうした利害調整で、どのアクターの関与が必要で、強化すべきかが分かるが、「(解決策は)国、調整能力などによって異なることもある」と強調した。

ボーダレスな協力が必要

続いて行われたパネルディスカッションでは、研究はさまざまな学問分野が協力していくことが大事であり、経験の中で何をアドバイスできるかなどについて議論された。

学際的な研究を進める上で大切なのは、現場に行き、地元の現状を把握することだ

「学際的な研究を進める上で大切なのは、現場に行き、地元の現状を把握することだ」と指摘したのは武内氏。SDGsの達成には地元の理解が必要で、「そのためにアフリカの現地で農家らとともに、地球温暖化、レジリエンス(修復)に関するドラマを作った。地べたをはう研究協力(on the ground research)が大事である」と語った。

ザスマン氏は、「学際的な研究を推進していくには、社会学者はもっと自然科学の論文を読んだ方がいい。また、専門分野外の人に自分の研究分野について教えること、学際的な形で教えることが重要だと思う」と指摘した。

髙村氏は、研究の中で喫緊の課題は何か、ニーズがあるのに欠けている分野「ミッシングリンク」はあるのか、と武内氏に質問。まず前者について武内氏は、「私は地域循環・共生型の社会の構築が重要だと思う。ここでいう『循環』には、物質の循環だけでなく、CO2の循環も含めるべきである」と回答。後者については、「重要な分野は投資だと提案したい。危機を認識する段階は終わり、今は解決策を見いだす時。民間企業の投資と自治体の取り組みが不可欠である」と語った。

ローカルレベルでの取り組み

第2部の司会は、武内氏。SDGsの目標を達成するために、草の根レベルで、どんなことが行われ、何が求められているかについて、専門家や自治体の首長が議論した。

齊藤修(さいとう・おさむ)氏
齊藤 修 氏(UNU-IAS アカデミックディレクター)

最初に、アフリカで活動する、国連大学サステイナビリティ高等研究所の学術研究官、齊藤修(さいとう・おさむ)氏が登壇した。齊藤氏は、SDGsの各目標のつながりを調べる研究について、「トレードオフを避け、相乗効果を増すことができる」と研究の貢献を強調した。

過去10年間(2008〜16)、アフリカのSDGsに関連する研究論文や書籍は増えている。そのトップ3はSDGs5の「ジェンダー」、次いで13の「気候変動」、3番目が1の「貧困」。一方で、OECD(経済協力開発機構)などのアフリカへの経済支援データ約43万件では、SDGs3の「健康」と13の「平和と公正」が多かった。これらの分析とJICA(国際協力機構)側のニーズを踏まえて、SDGs9の「インフラ」と11の「都市」をアフリカでの重点目標とした政策研究プロジェクトを現在進めている。その一環として、2018年8月にはガーナのアクラなどアフリカ3都市でワークショップを開催。アクラでは、IGESの可視化ツールを使い、SDGs 9、11と他の目標とのつながりを明らかにした。「それを踏まえ、ステークホルダーらと議論し、産業、経済、社会の観点から20の解決策を見いだした。さらにそれらの解決策の優先順位付けをワークショップ参加者と一緒に行い、その結果としてジェンダーの包摂性、経済インフラ、農業の近代化が上位3つの解決策となった。同様の解決策の特定と優先順位付けをマラウィと南アフリカで実施した」と、齊藤氏は語った。

米原(よねはら)あき氏
米原 あき 氏(東洋大学社会学部 教授)

次に、東洋大学社会学部教授の米原(よねはら)あき氏が、SDGs達成に不可欠な教育の重要性について講演した。

2000年国連ミレニアム・サミットで採択された、ミレニアム目標(MDGs)に盛り込まれた教育の目標は、初等教育就学率や識字率などの指標を含む。「こうした定量的な指標は比較的評価が容易。一方、SDGs4の教育目標はより定性的で理念的だ。抽象的な目標は、ローカルな概念に翻訳しないと、評価のためのエビデンスが得られない」と強調した。

また、UNESCOが主導するESD(持続可能な開発のための教育)を実践する学校は、ユネスコスクールとして世界182カ国で1万校以上が認証されており、このうち10%近くが日本の学校だ。米原氏は、2015年に日本政府とユネスコが共同で創設したESD賞を受賞した、日本をはじめ、ジンバブエ、ヨルダンなど国内外の事例を紹介。例えば日本の事例について、「岡山市では、学校、自治体、民間組織などが協働し、ESDの活動が市全域で行われた。カフェセッションなどの場では、市民が集合的に学ぶ場が設けられていた」と語った。

さらに米原氏は、「教育の評価は難しい。可視化されていない価値がどこにあるのか、科学的かつローカルなアプローチを駆使して価値を可視化し、それを評価し、グッドプラクティスのエビデンスを蓄積していかなくてはならない。現場の教育者は忙しいし、データ収集、社会調査のスキルや統計分析のスキルも十分ではない。研究者とこうした実践者とのコラボが必要だ」と語った。

泉谷満寿裕(いずみや・ますひろ)氏
泉谷 満寿裕 氏(石川県珠洲市 市長)

続いて、石川県珠洲市市長の泉谷満寿裕(いずみや・ますひろ)氏が、自治体としてのさまざまな実践を紹介した。珠洲市は、能登半島の最先端に位置する。「地域の魅力を高め、人口減少を食い止めるのが最大の課題」と話す。

珠洲市は、2011年の世界農業遺産認定を契機に、生物多様性の活用と保全を図っている。「2007 年から、金沢大学と共に里山里海マイスター育成プログラムを始め、観光、農業など多彩な分野のマイスター165人が巣立った」と、泉谷氏は成果を語った。こうした取り組みが認められ、2018年6月には、「SDGs未来都市」に認定された。

さらに、企業、事業所が「大学と連携する中で、販路を拡大したり、商品を開発したり業績を伸ばすことを目的として、2018年10月1日に「能登SDGsラボ」を設立。泉谷氏は、「大学のグローバルネットワークを生かし、経済、人づくり、環境保全と技術開発を組み合わせた取り組みで、持続可能な未来を構築し、人口減少を食い止めたい」と語った。

グローバル目標からローカル実践へ

続くパネルディスカッションでは、珠洲市のマイスター育成プログラムについて質問が相次いだ。

齊藤氏は、若い人を動員し、新しいビジネスも生まれているのかと質問。泉谷氏は、「マイスターの中には、ゲストハウスや民泊などの宿泊施設、レストランやスイーツの販売などに携わる人々がおり、さまざまなビジネス機会が生まれている。最近では、佐渡から飛んでくるトキの餌場になるように、田んぼの農薬を減らしたコメ作りをやっていこうという動きがある。そうした付加価値を付けて、販売しようとしている」と答えた。

米原氏からは、学校教育ではどうなっているのかという質問があった。泉谷氏は、「学校現場では、潜在的な珠洲の魅力を感じてもらうために、小中高生らが生物多様性や生き物の調査をし、未来をどうすべきかを発表している。内容の質も相当高い」と回答。

世界農業遺産やSDGs未来都市への取り組みによって住民の帰属意識が変わったのか、と尋ねたのは武内氏。これに対し泉谷氏は、「世界遺産、未来都市に選出されたことは、誇らしい。ただそれが魅力につながっているか、ビジネスにつながっているかは、これからだ」と語った。

会場からは、サステイナビリティ学は自治体の活動に貢献できるのかと質問が続いた。泉谷氏は、「金沢大との連携は人材育成を目標に始まったが、SDGsが加わり、今後は、環境、社会、経済をどうつなげていくか、新たな付加価値の創出のために、産官学の連携はもとより、金融機関の資金との連携も重要だ」と語った。

その他、SDGsが2030年までに達成できないという失敗をサステイナビリティ研究によって避けられるか、という質問が会場から寄せられた。齊藤氏は、「SDGsはグローバルにデザインされたもので、そのダウンスケーリング、すなわちローカルな文脈にどのように適用していくかが喫緊の課題である。(アフリカでの実践のように)ステークホルダーと議論し、どれが、解決法なのか議論することが大事」と語った。米原氏は、「評価がカギ。SDGsは、達成の評価が非常に難しい。MDGsは、就学率などのシーリングのある指標で達成度が評価できた。しかし、SDGsの指標はノンシーリングなものも多く、例えば、グローバルシチズンシップやジェンダーの質が100%というのはどういう意味なのか、定義するのは容易ではない。研究によって、この困難な状況を、オペレーション可能な『指標』に読み変えることができると考えている。それによって解決法を探し出せる」と指摘した。

出版社として

第2部の終わりに武内氏は、「サステイナビリティ学は最先端の課題に取り組むことは言うまでもなく、統合的な側面、社会的な側面に焦点を当てることも重要。Sustainability Science の編集長として、Nature Sustainability の創刊をうれしく思っている。2つの雑誌が連携できることを望んでいる」と語った。

そして最後にザバラ氏が、今回の議論はSpringer Natureが2017年11月に始めた「グランドチャレンジプログラム」の一環であると総括。このプログラムは、各国の政策決定者に、(Nature Sustainability などの)出版を通じて科学的成果を提示することを目標としており、持続可能な開発目標(SDGs)達成もその重要な分野の1つであると述べ、今回のイベントは終幕となった。

(文:玉村 治)

役職は 2018年9月時点のものです。

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