SDG Perspectives from Japan

社会と協創する学際研究でSDGs達成に貢献

沖 大幹

原文: 22 Feb 2016 | SDG Perspectives from Japan: Insights from Taikan Oki, a global hydrologist

―― ご自身の研究はSDGsとどのように関係していますか? SDGsに関する主要な研究論文や書籍があれば教えてください。

グローバル水文学の研究者として世界の水資源や水循環、仮想水貿易などについてこれまで多数の論文を出してきましたが、その中で一つを挙げるなら、2019年の春にNature Sustainability に出したものがよくまとまっていると思います。

この論文はSDGsの前身であるMDGs(ミレニアム開発目標)において飲料水に関する目標がいち早く達成された理由を、百数十編に及ぶ文献の調査によって明らかにしたものです。「半減」という現実的な目標を掲げた点と「改善された水源の利用」という評価指標を用いた点、そして、中国とインドの経済発展に伴う水インフラの整備が達成に貢献した主要因だと結論づけました。この研究から得られた教訓は、現在進行中のSDGsをより実現可能なものにするにはどうすればいいか考える際に役立つはずです。

また、私は国連大学の上級副学長として、各国が年に一度SDGsに対する取り組みの進捗状況を報告する「ハイレベル政治フォーラム」に参加しています。フォーラムにはSDGs策定時の当事者が多数参加しています。彼らから作成過程におけるさまざまな議論の経緯を聞いて、「17のゴール、169のターゲット、232の技術指標」という複雑な形になったSDGsをこと細かに把握するより、「持続可能な開発のための2030アジェンダ(アジェンダ2030)」の趣旨を理解することのほうが重要だと思うようになりました。そもそもSDGsはアジェンダ2030の中に謳われている目標であり、アジェンダ2030にこそ、SDGsを掲げるに至った問題意識や世界が今後目指すべき方向が示されています。そこで、研究者を含め一般の方に向けて『SDGsの基礎』(事業構想大学院大学、2018年刊)という本を共著で書き、ビジネスリーダー向けには「SDGs企業戦略フォーラムからビジネスリーダーへのインサイト」という小冊子を作り、アジェンダ2030の趣旨を解説しています。

―― SDGsに関連する研究において、トランスディシプリナリー(超学際的)な連携はどのくらい重要でしょうか。そして、それを効果的に実施するにはどうすればいいですか。

Integrating the SDGs with Business 冊子
Integrating the SDGs with Business 冊子

Credit: Copyright 2019 United Nations University

私の専門である土木工学、社会基盤学というのは本質的に学際的な営みです。たとえば「東京から大阪に毎日20万人運びたい」という社会の要求に対して、航空機でも自動車でもなく鉄道で実現しよう、となると、単に橋をかけてトンネルを掘って線路を引くだけではなく、安定した電力供給システムや新幹線としてふさわしい車両やその素材から開発するという風に、使える技術は何でも使うのです。プロジェクトの経済性評価には経済学を使いますし、快適な乗り心地の実現には心理学も使います。ある学問を(手段として)使って何ができるか、ではなく、ある目的を達するために使える学問は何か、という発想ですね。そのため、学際的で当たり前という感覚です。

なおかつ、トランスディシプリナリーもそもそもの初めから組み込まれています。土木工事の必要性や工法は学術的な合理性だけでは決まりませんから。政府や地元自治体、企業、地元住民などそれぞれに意見があり、議論を通じてしか解決できない。ただ、研究者としては合意形成にばかりコミットしていると学術的成果の発出がおぼつかなくなるので、私個人としては、学問的に深める研究(論文としてまとめる研究)はまた別のものと割り切る必要があると思っています。

とはいえ、トランスディシプリナリー的な仕事に研究者として益がないというわけではありません。私は水と気候変動と持続可能な開発の専門家として、学術界の外でもさまざまなところで講演を依頼されます。そうした仕事は研究者としての社会貢献でもありますが、それだけではなく、私の話に対し、その場で「私の業界ではそれは当てはまらない」という指摘を受けたり、「私の現場ではこんな問題がある」というように他分野、他セクターに関する新たな情報のシャワーを浴びたりできるのです。それが私にとって新しい研究の素材として蓄積されたり、インスパイアのもとになったりします。たとえば先ほどお話ししたMDGsにおける飲料水目標達成についての論文はまさにそのケースで、水だけでなく貧困に関する目標も早くに達成されているという情報を知り、水と貧困の課題がいち早く達成されたのはなぜだろう、それを調べてみようと思ったところから始まったのです。

―― 若手研究者がSDGs関連の研究にもっと参加するにはどうすればよいでしょうか。自身の研究で社会にインパクトを与えたいと考えている若手研究者へのアドバイスをお願いします。

最初に、すぐに社会の役に立ちたいのであれば、必ずしも研究者になることが唯一の道ではない、ということは申し上げておきたいと思います。社会起業という選択肢もあります。優秀な人が学術界だけでなく、社会のさまざまなところで活躍するのが社会としても望ましい姿のはずです。

それでも研究者として何らかの形で社会に貢献したいと思っている若手研究者の皆さんには、遠回りに聞こえるかもしれませんが、「まず何かの分野で研究者として一流になること」を目指していただいてはいかがでしょうか。今すぐ社会のために役に立つ研究をしようと焦っても誰も見向きもしてくれない可能性が高いのです。まずは、それぞれの分野の然るべき論文誌にしっかりと研究成果を掲載して業績をあげ、専門性の高さと実績で学術界における信頼を勝ち取る必要があります。そうなって初めて社会からも学識を認めてもらえるようになり、話に耳を傾けてもらい、よりよい社会構築の一翼を担う役割を負って、社会の役に立つ存在になれると思います。

本記事は、Springer Natureサイト「The Source」、並びに東京大学IFIのサイトでご覧いただけます。

Author Profile

沖 大幹(おき たいかん)

東京大学総長特別参与・大学院工学系研究科教授、国際連合大学上級副学長、国際連合事務次長補

地球規模の水文学および世界の水資源の持続可能性を研究。気候変動に関わる政府間パネル(IPCC)第5次報告書統括執筆責任者、国土審議会委員ほかを務めた。
東京大学工学部卒業、工学博士、気象予報士。2006年東京大学教授。2016年10月より国際連合大学上級副学長、国際連合事務次長補も務める。2020年10月より日本学術会議会員、ローマクラブ正会員。

生態学琵琶湖賞、日経地球環境技術賞、日本学士院学術奨励賞など表彰多数。水文学部門で日本人初のアメリカ地球物理学連合(AGU)フェロー(2014年)。書籍に『SDGsの基礎』(共著)、『水の未来 ─ グローバルリスクと日本 』(岩波新書)、『水危機 ほんとうの話』(新潮選書)、『水の世界地図第2版』(監訳)、『東大教授』(新潮新書)など。

沖 大幹氏
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