Scientific Data ブログ

Author Corner: メタボロミクスデータの共有と標準化の進展

原文: 12 April 2016Author’s Corner: Advancing the sharing and standardization of metabolomics data

ゲスト投稿:Mark Viant(英国バーミンガム大学生物科学部メタボロミクス教授、NERC生体分子解析施設およびフェノームセンター・バーミンガム施設長)

Mark Viant

2014年、我々の研究チームは、メタボロミクス測定に関する最初のScientific Data の Data Descriptor として、Direct infusion mass spectrometry metabolomics dataset: a benchmark for data processing and quality control(直接注入質量分析メタボロミクスデータセット:データ処理と精度管理のためのベンチマーク)を発表した。この Data Descriptor では、質の高い(直接注入)質量分析(DIMS)データを確実に得るために重要な多くのステップについて、きわめて詳細に記述している。我々が意図したのは、この掲載によって、成功事例のワークフローと厳密な品質評価を用いて得られるDIMSメタボロミクスのベンチマークを確立することを促すことであった。このデータは、メタボロミクスデータの公開データベース MetaboLights でも無料公開されている(MTBLS79)。

2年が経過しようとしている今、どの程度までScientific Data での掲載が我々の目的を達したか、そしてその間、メタボロミクスコミュニティーの中でデータの報告と標準化が少しでも変化したかどうかを問いたい。

我々の Data Descriptor の引用を改めて見てみると、主に手法のベンチマークとして用いられていることが明らかである。このことは、原稿の執筆に我々が時間をかけたのは正しかったと私に再確認させただけでなく、Scientific Data で報告されるようなタイプのデータ記述を公にする価値についてのより一般的な意味を強調している。特にこの Data Descriptor は、我々のデータセットについて、原著論文として発表するよりも大きな認知度を生み出しただけでなく、重要なことに、我々がデータの収集と解析に用いた解析法や計算法の認知度を上げることとなった。しっかりしたレビューを受けるこのような公開チャンネルは、生命科学分野のデータの質に多大な好影響をもたらすと考えられる。

次に、国際的なデータリポジトリの重要性についてコメントしたい。そもそもメタボロミクスの分野には、2つの国際的なデータリポジトリがある。それは、欧州の EMBL-EBI の MetaboLights リポジトリ1と、米国立衛生研究所(NIH)が資金を負担してカリフォルニア大学サンディエゴ校に置かれている Metabolomics Workbench である2。とはいえ、どれだけメタボロミクスコミュニティーがこれらのリソースを利用しているのであろうか。そしてその利用は増えているのだろうか。

2014年10月、我々はメタボロミクスコミュニティーにおけるトレーニングのニーズを明らかにするための国際的調査を完了した。この調査は、国際メタボロミクス学会ELIXIR-UK を代表して行われたものである。この調査の結果は少々期待外れのものであった。202件の回答のうち、MetaboLights を利用したことがあるものは約22%、Metabolomics Workbench を利用したことがあるものは約12%にとどまったのである3。2016年2月には、次の国際的調査を完了した。今度は、コンピューターによるワークフローに着目し、再びリポジトリの利用について尋ねた。幸いにも、データリポジトリの利用は増加している。具体的には、31%の科学者が MetaboLights を利用し、14%が Metabolomics Workbench を利用していることがわかった(調査結果は未公表)。この知見は、EMBL-EBI で現在最も急速に伸びているリポジトリが MetaboLights であるという評価と一致する(EBIのケモインフォマティクス・代謝チームを率いる Christoph Steinbeck との個人的情報交換による)。

私は、国際的なデータリポジトリの本質的な価値が、あらゆるレベルで、実験系と情報系の両方の研究者によって認識されつつあることを確信している。このことはある面で、新規データからの発見を最大限利用するのに適切な参照データが利用可能となることを約束するものである。私はこの増加傾向が続き、2016年の終わりにはコミュニティーの半分以上がこのすばらしいリソースを利用していることを望んでいる。

次の非常に重要な話題は報告の標準についてであり、これはメタボロミクスでは少々見過ごされてきたものである。2007年、国際的なメタボロミクス標準イニシアチブの重要な活動としてジャーナルが創刊したが、ここには幅広いメタボロミクス研究に関して推奨される報告標準を記述する原稿が非常に多く掲載されている。その内容は、生物学的デスクリプター、分析方法とデータ解析手法4Metabolomics 誌のその版のさらなる参考文献にわたっている。それらの業績の一部はよく引用されている。たとえば、Google Scholar によれば、Proposed minimum reporting standards for chemical analysis Chemical Analysis Working Group (CAWG) Metabolomics Standards Initiative (MSI)(化学解析に関する最小限の報告標準の提案:メタボロミクス標準イニシアチブ化学解析ワーキンググループ) 5には603件の引用がある。しかし、メタボロミクスコミュニティーによって切に必要とされているものの、そうした初期的な推奨を改善・更新しようとする継続的な取り組みは行われていない。

現在、新しい取り組みが生まれつつある。たとえばメタボロミクス学会は、この分野に取り組む2つのタスクグループを擁している。1つは、メタボロミクスデータセット中の情報の効率的な保存、圧縮、交換、検証を可能にする取り組みを促進し、協調させることを目指す「データ標準タスクグループ」。もう1つは、代謝物同定の報告標準についてのコンセンサス形成を目標のひとつとする「代謝物同定タスクグループ」である。ここでも、Scientific Data のようなジャーナルは、質が高く厳密な報告標準の注目度を高めるうえで重要な役割を果たすことができる。

References

  1. Haug, K.; Salek, R.M.; Conesa, P.; Hastings, J.; de Matos, P.; Rijnbeek, M.; Mahendraker, T.; Williams, M.; Neumann, S.; Rocca-Serra, P.; et al.
    MetaboLights– an open-access general-purpose repository for metabolomics studies and associated meta-data
    Nucl. Acids Res. 2013, 41, D781–D786. doi: 10.1093/nar/gks1004
  2. Sud, M.; Fahy, E.; Cotter, D.; Azam, K.; Vadivelu, I.; Burant, C.; Edison, A.; Fiehn, O.; Higashi, R.; Nair, K.S.; et al.
    Metabolomics Workbench: An international repository for metabolomics data and metadata, metabolite standards, protocols, tutorials and training, and analysis tools
    Nucl. Acids Res. 2016, 44, D463–470. doi: 10.1093/nar/gkv1042
  3. Weber, R.J.M.; Winder, C.L.; Larcombe, L.D.; Dunn, W.B.; Viant, M.R.
    Training needs in metabolomics
    Metabolomics 2015, 11, 784–786. doi: 10.1007/s11306-015-0815-6
  4. Fiehn, O.; Robertson, D.; Griffin, J.; van der Werf, M.; Nikolau, B.; Morrison, N.; Sumner, L.W.; Goodacre, R.; Hardy, N.W.; Taylor, C.; Fostel, J.; Kristal, B.; Kaddurah-Daouk, R.; Mendes, P.; van Ommen, B.; Lindon, J.C.; Sansone, S.-A.
    The metabolomics standards initiative (MSI)
    Metabolomics 2007, 3, 175-178.
  5. Sumner, L.W.; Amberg, A.; Barrett, D.; Beale, M.H.; Beger, R.; Daykin, C.A.; Fan, T.W.-M.; Fiehn, O.; Goodacre, R.; Griffin, J.L.; Hankemeier, T.; Hardy, N.; Harnly, J.; Higashi, R.; Kopka, J.; Lane, A.N.; Lindon, J.C.; Marriott, P.; Nicholls, A.W.; Reily, M.D.; Thaden, J.J.; Viant, M.R.
    Proposed minimum reporting standards for chemical analysis Chemical Analysis Working Group (CAWG) Metabolomics Standards Initiative (MSI)
    Metabolomics 2007, 3, 211-221.

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