Event Report

Open Research Forum
研究の質向上とオープンイノベーションの促進ブックマーク

文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)

研究論文やデータなどをできるだけオープンにすることで、研究を加速し、また第三者による新たな研究やイノベーションの発展を促す。こうしたオープンサイエンスを実現していくための日本と英国における取り組みを紹介する。

当日の様子

2017年3月28日、シュプリンガー・ネイチャーと文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)の共催によるオープンサイエンスに関するフォーラムが、シェラトン都ホテル東京で開催された。

「科学を社会一般に対してオープンにすることが、研究や経済的成長の可能性を広げるという認識のもと、その実現に向けて、世界が大きく動きだしている。」原山優子氏の基調講演である。このような動きは、英国で開催された2013年のG8サミットにおける合意が端緒だという。日本では2015年、内閣府が報告書「オープンサイエンスに関する検討会」をまとめ、第5期総合科学技術計画(2016~2020年)にオープンサイエンスの推進が盛り込まれた。

原山 優子氏

原山 優子氏
総合科学技術・イノベーション会議議員

では、そもそも何をオープンにするのか。公的資金を用いた研究を対象に、「論文へのアクセス」と「研究データへのアクセス」に対する方向性が示された。「“死蔵”されたかもしれないデータの再利用や、研究時間の節約などにもつながる、サイエンスのエコシステム」と原山氏。現在、日本でどのように実現していくか、具体的な検討段階にある。

英国の現状

オープンサイエンスに関する取り組みが最も進んでいる国の1つである英国からは、Mark Thorley氏が私人として参加し、基調講演を行った。

英国では2016年に英国高等教育財政会議などにより『オープンリサーチデータ協約』が結ばれ、「データはできる限りオープンにする」などの10原則が定められた。特別な情報を除き、「無料で、すぐにアクセスできる」ことが国民から期待されているのが現代である、とThorley氏は改めて指摘する。データへのアクセスは、その研究の再現性検証を可能にしたり、ビッグデータを用いたデータ集約型研究をも可能にしたりすると認識されるようになったそうだ。

情報の利用や引用が、商業利用や商業機会へとつながった例もThorley氏は紹介した。同氏は環境科学の専門家でもあり、研究データを利用した企業による、洪水リスクを示す地図や、地下のラドン量を推定した地図の制作販売などが取り上げられた。商業利用の場合には、データの規模が大きいことが望まれ、特にモニタリングなどでは一貫性が重要であること、知的財産権への配慮も重要と説明する。また、データの意味や内容を理解して、付加価値をつけて利用できるように企業に仲介できる人材も重要だという。

日本でのオープンサイエンスの実現に向けて

フォーラムの後半部はパネルディスカッションで、オープンサイエンスに黎明期から取り組んできた林和弘氏をモデレーターとして進められた。

パネリストは基調講演の2氏と次の4氏。土井美和子氏は、2016年に発表された日本学術会議のオープンサイエンスに関する提言の取りまとめにおいて、委員長を務めた。その提言のもと、日本の大学や研究機関などにおける研究データの管理や公開のための共通基盤の整備を進めているのが、山地一禎氏。徳永勝士氏は、ゲノム科学分野のオープンアクセスジャーナル、Human Genome VariationHGVの編集長だ。この雑誌は、実際に研究に携わる関係者の要望や期待から生まれたものとして、注目されている。最後にSpringer NatureのTim Britton氏である。

Mark Thorley 氏

Mark Thorley 氏
英国自然環境調査局(NERC)科学情報部門統括

一方、会場には大学や研究機関、企業など、さまざまな分野の人たちが集まり、大学関係者の中には学長や副学長の姿も多く見られ、関心度の高さが感じられた。

会場からは、まず、データを生み出した人たちのクレジットはどう保証されるのかという質問が出た。これには、データに対しても論文と同様にDOI(デジタルオブジェクト識別子;Digital Object Identifier)を付けることで、再利用においても、データ生産者に対する評価が得られるとBritton氏が答えた。

データ量が増えていくことから、データの保管場所が大きな課題となるとの指摘も出た。大学や研究機関単位で構築される保管場所を「機関リポジトリ」、各研究分野において構築されるものを「分野別リポジトリ」といい、英国でも日本でも、機関リポジトリの構築が活発化している。Thorley氏は個人的見解と前置きし、「品質が保証されるという意味では、その分野の科学者がデータの内容を理解して管理している分野別リポジトリが望ましい。機関リポジトリでは、使われないデータばかりが闇雲に集まることにならないか」と意見を述べた。これに対して山地氏は、「分野横断的な検索が可能で、しかも分野別に使うことも可能な機関リポジトリの仕組みを作ることを考えている」と説明した。なお、大学等が定める研究データ保存のガイドラインを実現する基盤としての、機能や運用方法についても検討が進められているそうだ。

徳永氏は自誌を例にとり、「分野別リポジトリとして、HGV は簡易データベースを用意している」と紹介した。データが論文とセットになっているため、データの由来などが分かって使いやすいとのことである。

データの品質に関しては、形を変えて数多くの質問が出た。論文と異なり、データの査読は必ずしも十分ではない。「論文の根拠となるデータをまず公開していただく。その際に、人によってキュレーションが行われるシステムの構築を目指している」と山地氏。そのために、キュレーターを育て支えていく仕組みを作ることが急務と、土井氏が付け加えた。関連して、原山氏が説いたのは、科学者の育成におけるデータの収集法の教育の必要性と重要性である。

閉会の辞に立ったNISTEP所長の川上伸昭氏は、「オープンサイエンスは、どう実施していくかを考える時代に、ようやくたどり着いた」と感慨深げであった。そして、「フェイクデータなどに惑わされない、健全なオープンサイエンスの発展を目指していきたい」と締めくくった。

(サイエンスライター/藤川良子)

原山 優子 氏

総合科学技術・イノベーション会議議員

Mark Thorley 氏

英国自然環境調査局(NERC)科学情報部門統括

土井 美和子 氏

国立研究開発法人情報通信研究機構監事

山地 一禎 氏

国立情報学研究所オープンサイエンス基盤研究センター 准教授

徳永 勝士 氏

東京大学大学院医学系研究科人類遺伝学分野教授

Tim Britton 氏

Springer Nature オープンリサーチ・グループ マネージング・ディレクター

林 和弘 氏

科学技術・学術政策研究所

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