Editorial

エイジングのサイエンスが実ってきた!

坪田 一男
npj Aging and Mechanisms of Disease 編集長

npj Aging and Mechanisms of Disease (2015) 1, 15007;
doi: 10.1038/npjamd.2015.7; published online 28 September 2015

エイジング研究はこの20年で飛躍的な発展を遂げ、今では代謝や時間生物学との関わり、さらには「幸せ」と寿命との関わりなどにも研究の関心が及ぶようになってきました。Editor-in-Chief が最先端のエイジング研究の波動を網羅的に解説します。

加齢は、がんや心疾患など、世界で罹病率や致死率がきわめて高い多くの疾患に関わっている。今や多くの国が高齢化に直面し、がんや心血管疾患、肺疾患など、命に関わる加齢関連疾患が増えているが、この20年で、加齢の背後にあるメカニズムについて、遺伝子、細胞、そして体全体での理解が飛躍的に進展してきた。

新しい領域における刺激的な研究は、ゲノム、エピゲノム、マイクロバイオーム、そして環境間の複雑な相互作用が加齢に関わっていることを明らかにしている。エピジェネティックな修飾(ゲノムに刻まれた化学的な目印で、遺伝子の発現に影響する)に関する最近の研究は、加齢プロセスとの意外な結びつきを明らかにし、環境要因とのつながりを証明した1。加齢の過程では、DNAの調節的メチル化やヒストンタンパク質の共有結合的修飾、調節性非コードRNAの発現など、重要なエピジェネティクス的標識が影響を受けている。

このエピジェネティックな変化に対する環境の影響は、一卵性双生児による研究で明確に示されている。成長した一卵性双生児のエピゲノムはもはや同じではなく、遺伝子発現、そして最終的には寿命に差が生じる2。エピジェネティックな変化は遺伝子発現を左右し、特に代謝の変化を介して究極的には加齢のプロセスに影響を与えると考えられる。

エピジェネティックな修飾に影響を与える環境要因のなかでは、食物が不足していることがきわめて重要である。そのため、mTORやサーチュイン、インスリン様成長因子/インスリンシグナル伝達経路など、加齢に関わるとされている分子やシグナル伝達経路の多くが代謝と関連しているのはもっともなことである。したがって、食物の摂取や消費によって我々の遺伝子が代謝の状態をどのように変化させるのかという問題は、加齢科学の重要な課題である。

加齢研究の新たな刺激的領域としては、人体内に生息している微生物もある。たとえば、我々の腸にはおよそ1×1013~1×1014個の微生物が存在する。これは我々の体の細胞の10倍に相当し、その遺伝子の数はヒトゲノムの150倍にのぼる。最近の研究は、5億年以上にわたって我々とともに進化してきたこれらの微生物の影響を明らかにしている。影響が示された生理学的プロセスは、免疫応答の発達や機能から、栄養素吸収の調節、脂質の分布、神経学的プロセス、そしてごく最近では加齢のプロセス3までさまざまである。

加齢研究の新しく刺激的な領域には、さらに概日リズムで光が果たす役割もある。体内時計は、エネルギー代謝や消化管の運動、睡眠覚醒サイクル、心血管の活動、内分泌、体温、腎臓の活動、歩行運動など、さまざまな生理学的・行動的プロセスと結びつけられている4。体内時計を損傷させると睡眠パターンに大きな影響が現れ、高血圧性クリーゼ、心筋梗塞、喘息、アレルギー発作が生じることがあり、場合によっては気分や学習能力に影響が及ぶこともある。最近の研究は、過剰な光と概日リズム、脂肪燃焼組織の活性との相互作用を明らかにしており、新しい論文では、通常の光周期からはずれた光を受けたマウスが通常の明暗周期下に置かれたマウスよりも多くの脂肪を蓄積したとされている5。体内時計の調節が制御できなくなると、遺伝子レベルで悪影響を与え、加齢関連疾患につながると考えられる。たとえば、体内時計に関係する遺伝子がノックアウトされたマウスは、心肥大やてんかんなど、寿命を縮めるさまざまな疾患を発現する6。そうした知見は、健全な概日リズムを維持することの重要性を再認識させるものであり、この領域の今後の研究は、重要な臨床応用性を伴う刺激的な知見を生むはずである。

健康長寿を全うするには、気の持ちようや精神状態も関与すると考えられている。横断的・長期的疫学研究では、世間では思い込みだと考えられている「幸せな人は長生きする!」ことを支持する結果が得られている7,8。最近の介入研究は、環境を変えた動物試験により、この仮説をさらに支持している9

加齢の根本的なメカニズムがわかれば、さまざまな加齢関連疾患に応用可能な新しい治療法が開発される可能性がある。npj Aging and Mechanisms of Disease は、加齢および加齢関連疾患の分野に携わる世界の一流研究者に議論の場を提供する。このジャーナルが取り扱うのは、加齢および加齢関連疾患の背後にあるメカニズムを解明しようとする研究であり、そのなかにはミトコンドリア代謝、DNA損傷応答、酸化ストレス、概日リズム、エピジェネティクス、オートファジー、マイクロバイオームなどの研究が含まれる。

我々は、カロリー制限ミミックのような加齢関連疾患の新しい治療法、概日リズムを保つためのエクササイズを取り入れたライフスタイルの改善【practical exercise approach lifestyle modification for circadian disruption】、そしてがん予防に関する投稿を期待している。npj Aging and Mechanisms of Disease は、基礎研究者のみならず、加齢関連の知見を実際に応用したいと考えている臨床医からも論文や記事を広く募集している。

References

  1. Schroeder EA, Raimundo N, Shadel GS. Epigenetic silencing mediates mitochondria stress-induced longevity. Cell Metab 2013; 17: 954–964.
  2. Fraga MF, Ballestar E, Paz MF, Ropero S, Setien F, Ballestar ML et al. Epigenetic differences arise during the lifetime of monozygotic twins. Proc Natl Acad Sci USA 2005; 102: 10604–10609.
  3. Fontana L, Partridge L. Promoting health and longevity through diet: from model organisms to humans. Cell 2015; 161: 106–118.
  4. Asher G, Sassone-Corsi P. Time for food: the intimate interplay between nutrition, metabolism, and the circadian clock. Cell 2015; 161: 84–92.
  5. Fonken LK, Workman JL, Walton JC, Weil ZM, Morris JS, Haim A et al. Light at night increases body mass by shifting the time of food intake. Proc Natl Acad Sci USA 2010; 107: 18664–18669.
  6. Musiek ES, Lim MM, Yang G, Bauer AQ, Qi L, Lee Y, Roh JH et al. Circadian clock proteins regulate neuronal redox homeostasis and neurodegeneration. J Clin Invest 2013; 123: 5389–5400.
  7. Steptoe A, Deaton A, Stone AA. Subjective wellbeing, health, and ageing. Lancet 2015; 385: 640–648.
  8. Frey BS. Psychology. Happy people live longer. Science 2011; 331: 542–543.
  9. Lazarov O, Robinson J, Tang YP, Hairston IS, Korade-Mirnics Z, Lee VM et al. Environmental enrichment reduces Abeta levels and amyloid deposition in transgenic mice. Cell 2005; 120: 701–713.
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