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肺がん:TRACERxにおける肺腺がん形態の進化的特性解析

Nature Medicine 29, 4 doi: 10.1038/s41591-023-02230-w

肺腺がんは組織学的に幅広いスペクトラムを呈し、低悪性度の置換型から中悪性度の腺房型や乳頭型、そして高悪性度の充実型、篩型、微小乳頭型の腫瘍がある。しかし、これらの増殖形態が腫瘍の進化や疾患の進行をどの程度反映しているのかはよく分かっていない。本研究では、TRACERx 421コホートからの248例の肺腺がんについて、原発巣由来の805検体および対をなす転移巣由来の121検体から得られた全エキソンシークエンシングデータを、463の原発巣由来の検体からのRNAシークエンシングデータとともに、詳細な腫瘍全体および局所における病理組織学的データと統合した。高悪性度増殖パターンが優勢な腫瘍では、染色体複雑性の増加が見られ、ゲノムに占めるヘテロ接合性の消失の割合が高く、サブクローナルな体細胞コピー数変化を多く伴っていた。高悪性度増殖パターンが優勢な腫瘍内の個々の領域では、高い増殖能と多様性の乏しいクローン増殖を認め、これは最近生じたサブクローンの急拡大を反映している可能性がある。低/中悪性度の増殖パターンが優勢の腫瘍では、染色体3pと3qの腫瘍発生初期の同時欠失が多く見られたが、腫瘍全体が未分化を呈する充実型腺がんでは、充実型成分を含んだ複合パターンの腫瘍と比較して、腫瘍発生初期の3qの腕全体または部分的なコピー数増加や、SMARCA4遺伝子の異常の頻度が高かったため、これらの腫瘍の進化の軌跡は他と異なることが示唆された。クローン進化解析では、腫瘍には高悪性度パターンに向かって進化する傾向があることが確認された。微小乳頭型増殖パターンの存在と「STAS(tumor spread through air spaces、腫瘍の気腔内進展像)」は胸腔内再発と関連し、対照的に、充実型/篩型増殖パターンの存在、ネクローシス、術前の血中循環腫瘍DNAの検出は胸腔外再発と関連していた。これらのデータは、肺腺がんの形態、その背景にあるゲノム進化の特徴、そして臨床的および解剖学的な再発リスクの間の関連性についての手掛かりを示している。

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