Editorial

遠隔医療の時代が来た

Nature Medicine 27, 7 doi: 10.1038/s41591-021-01447-x

遠隔医療(telehealth)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)という暗雲の縁から登場した明るい希望であり、医療や介護へのアクセス改善やデジタル医療の促進につながっている。これをさらに強化できれば、パンデミックが収束した後の医療をより公平なものにするのに役に立つ可能性がある。

医療へのアクセスを改善するために、電気通信による医師の診察を可能にする遠隔診療を使うことは、診療所へ行っての受診がほぼ不可能となったCOVID-19パンデミックの中で関心を集めてきた。米国では2020年3月のパンデミックが始まった時期に、遠隔医療をもっと使いやすくする目的で、受診場所に関する地理的制約を取り払い、バーチャルで提供できるサービスの種類を増やすなどの変更が行われた。そしてパンデミックの間に米国で起こった遠隔医療への移行は驚くべき勢いで進んだ。2020年1月にはメディケアでのプライマリーケアの1%にすぎなかったバーチャル診療が、4月にはそのほぼ半数に達したのである。2021年3月には遠隔医療による受診は英国やドイツ、フランス、ノルウェーなどの国々でも開始されている。遠隔医療を使うことでの医療へのアクセス改善の程度は、地理的に病院へのアクセスが非常に困難なことがある低・中所得国でさらに大きなものになるだろう。

医療へのアクセス改善に加えて、遠隔医療はバーチャルケアを可能にするウエアラブルデバイスやデジタル技術の使用を急激に普及させている。モビリティートラッカー、血圧モニターや血糖値測定器などのリモートモニタリング用ツールは、医師が患者の健康状態や治療への応答を常時監視することを可能にした。これらの手段によって詳細で長期にわたる患者のモニタリングが可能になれば、病気の初期の兆候を見つけ出し、予防的なケアを個別に行えるようになるだろう。

しかし遠隔医療はまだ初期の段階にあり、遠隔医療やモバイルアプリを使ってどのような症状や処置が可能なのかは、実はまだはっきりしていない。臨床試験が必要な分野も多く、特にメンタルヘルスが関わる分野については、現在のような遠隔医療の有効性は厳しく検証される必要がある。公平性が懸念されることも重要な問題である。高所得国であってもスマートフォンやコンピューターへのアクセスはまだ一般的とまではいっていないし、貧困率の高いコミュニティーでは遠隔医療の利用が少ないことも明らかになっている。高速ブロードバンドインターネットへのアクセスの拡大は、遠隔医療がヘルスケアの不公平性を拡大しないために必須だろう。遠隔医療は健康の公平性を減じるのでなく、公平性に貢献するようにならなければいけないのだ。

目次へ戻る

プライバシーマーク制度