Editorial

デジタルヘルス分野での信頼を築く

Nature Medicine 26, 8 doi: 10.1038/s41591-020-1032-z

COVID-19のパンデミックが世界的に続く中で、健康、医療や介護の分野にスマートフォン、SNSやインターネットアプリケーションなどの技術を導入し、医療を向上させるという「デジタルヘルス」が急激に拡大している。COVID-19パンデミックが始まった時期の全世界でのスマートフォン使用者は35億人程度と推定されている。この数字は10人のうち4人が活発な研究とアウトブレイクの封じ込めに関するデータを作り出せることを意味している。デジタルヘルスアプリケーションの開発は、最近のエボラ出血熱流行の頃から盛んになってきて、すでに数十に及ぶCOVID-19関連アプリが利用できる。

しかし、デジタルヘルスのこのような急速な進展においては、政府による緊急対策と組み合わさったことで、データプライバシーへの対処の仕方などがしっかり検討されないままに事態が進行するという状態が続いている。Nature Medicine では、デジタルプライバシーとCOVID-19に関する特集を組み、新しいデジタル技術、COVID-19パンデミックという状況下でのこうした技術の影響とデータの扱い、特にユーザーのプライバシーとアプリケーションへの信頼の構築について考察することにした。

この分野での技術的進歩は、集まったデータを使ってアウトブレイクの進行状況を知り、COVID-19に関連する多くの症状の意味を解明し、感染の爆発的増加に対してほぼリアルタイムで対応するなどの、以前には考えられなかった状態を世界にもたらした。COVID-19との闘いでのデジタルデータの汎用性についてはR McKendryたちがReviewで論じている。英国国民保健サービス(NHS)とイスラエルの研究者が展開しているような症状追跡アプリとウェブサイトは、迅速な診断のために症状を入力することを勧めており、こうした報告は国家のデータベースに保存される。これらを地図と結び付ければ、アウトブレイクの起こっている地域が突き止められる。体温測定値のような遠隔地の健康モニタリングデバイスからのデータは、解析に使えるような、もっと大規模なデータを作り出すのに使われる。

デジタル手法の多くはデータを共有する人々の善意に依存しているので、参加者の信頼の問題は最重要である。そして、複数のアプリがすでにこのようなハードルを越えられずに脱落した。デジタル手法がうまく機能するには、直接ユーザーのヘルス記録につながることが多いデリケートなデータの共有が必要となる。当然のことながら、ユーザーはこのようなデータには法律によって厳重な規制がかかっていて、そのプライバシーは開発者が最も懸念するものだと予想しているだろう。しかしながら、公衆衛生を守るための作業は緊急を要することが多いため、必要な保護や規制が(緊急事態宣言などによって)無効となっていることが非常に多い。

専門家は、データプライバシーに関する法律の運用についての曖昧さが、一般からの信頼を失う原因となりかねないと何度も忠告してきた。しかし、デジタルデータプライバシーの管理に関する法律や政策の透明性と一貫性の確保に関する議論への各国政府の反応は、パンデミックという緊急事態に遭遇しても従来通り鈍いままで、それが現在のデジタルツールの誤った管理につながったといえる。プライバシーのような複雑な問題に実効的に取り組み、強固な基盤の上に信頼を構築することは、現在のような危機の際には極めて難しいと思われる。デジタルヘルスという手法が一般に好意的に受け入れられるようにするには、一般大衆との重要で価値のある約束、透明性と周到な準備が必須なのだ。

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